「友だち幻想」(菅野仁)

どうすればもっと心穏やかに生きることができるか

「友だち幻想」
(菅野仁)ちくまプリマー新書

子どもたちは関係づくりに
苦しんでいます。
集団になじめない子ども、
よくトラブルを起こす子ども、
LINEで繋がる関係に
辟易としている子ども。
私(50代)の子どもの頃には
考えられないような状況が、
現代の子どもたちを
取り巻いているのです。

本書はそうした子どもたちの
心理を分析し、その解決、
つまりはどうすればもっと心穏やかに
生きることができるのかを
詳らかにしたものです。
そして私が教育現場で感じていた
疑問に答えるものでありました。

どうして繋がらなくては
いけないのだろう。
子どもたちを見ていて思います。
著者は次のように解説しています。
「多くの情報や
 多様な社会的価値観の前で、
 お互い自分自身の思考、
 価値観を立てることはできず、
 不安が増大している。
 その結果、とにかく「群れる」ことで
 なんとかそうした不安から
 逃れよう、といった
 無意識的な行動が
 新たな同調圧力を生んでいる」

「全員が仲良くする」よりも
「全員が心地良い思いを
持つ」ことのほうが
大切なのではないかと
常々思っていました。
しかしそれを
どう子どもたちに伝えるべきか
明確な言葉を
私は持っていませんでした。
著者は次のように言います。
「気の合わない人間、
 あまり自分が好ましいと
 思わない人間とも出会います。
 そういう人たちとも
 「併存」「共在」できることが
 大切なのです」

学校では学級の団結力が
とかく求められがちです。
大切なことだと思う一方、
そうでなくてもいいのではないかと
考えていました。
著者はそれを次のように
言語化しています。
「学校行事の中で
 何か目的があるときに、
 期間限定で団結して
 一生懸命になれることは、
 とてもいいと思います。
 でも、日ごろはやはり「あまり
 濃密な関係を学校空間の中で
 求めすぎない」ということが、
 教師や大人の心得として、
 じつは大事なのではないかと
 思っています」

こんな素敵な本が10年も前に
出版されていたとは驚きです。
教育現場で漠然と考えていたことが、
論理的にすっきりと整理されて
書き表されています。
本書の出版は2008年、
まだまだLINEが
登場していない時期です。
それから11年、LINEをはじめとする
SNSが中高生に広まり、
状況はさらに難しくなっている
この頃ですが、本書の内容は
なお新鮮に感じられます。
いや、状況が悪化した現在だからこそ、
本書がさらに広く
受け入れられているのかも知れません。

中高生に、
そして教育現場にいる方々に
お薦めします。
昨年ベストセラーとなりましたので、
すでに読まれているかも知れませんが。

(2019.9.16)

FineGraphicsさんによる写真ACからの写真

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