「幻想郵便局」(堀川アサコ)

人間(幽霊)ドラマとミステリー&冒険

「幻想郵便局」
(堀川アサコ)講談社文庫

就職浪人中のアズサは、
特技に「探し物」と書いた
履歴書のおかげで
アルバイトが決定する。
場所は山の上の登天郵便局。
採用初日、
その郵便局の職員たちは
なにやら不思議な行動をしている。
登天郵便局は
地獄の一丁目なのだと…。

親から「なりたいものになれ」と
言われて生きてきたけれど、
「なりたいもの」がわからない。
そんな現代的な女の子
(短大卒とあるので20歳)が
出会ってしまった心霊体験なのです。
といってもホラー小説ではありません。

登天郵便局は普通の郵便局ではなく、
彼岸と此岸をつなぐ郵便局です。
生者の思いを死者に伝えたり、
死者の意思を夢枕に立たせる形で
伝えたりする郵便局なのです。
このファンタジックな設定が秀逸です。

登天郵便局には
いろいろな人(と幽霊)が訪れます。
自分が誰に殺されたかもわからずに
成仏できないでいる真理子さん(幽霊)。
あの世にいる娘からの小包を待ち続ける
タマヱ大奥さま(生者)。
文法にうるさく表情の険しい国語教師・
立花先生(生者・途中から死者)。
生前一度も歩くこともなく
病死した少年アユム(幽霊)。
こうした面々と
登天郵便局の4人の職員(正体不明)が、
ほのぼのとしたドラマを
紡ぎ上げていくのです。

こうした人間(幽霊)ドラマが
本作品の縦糸だとすると、
横糸はミステリー&冒険タッチの
筋書きでしょう。

一つは幽霊の真理子さんを殺害した
犯人を突き止めるというもの。
アズサは深追いしすぎて
身の危険にさらされるのですが、
当然不思議な力を持った局員によって
窮地を脱します。

もう一つは登天郵便局の土地を巡っての
狗山比売との対立。
最後は登天郵便局との
全面衝突となりますが、
アズサの採用も含めて、
すべてが狗山比売の掌で
踊らされていたという事実が
衝撃的です。

唐突に参入する登場人物。
十分に描き込まれているとは
いいがたい感情表現。
どう決着がついたのかわかりにくい
郵便局と比売の対決の結果等、
細かい瑕疵も散見されます。
しかしそれらを補って余りある
小説としてのエンターテインメントは
抜群です。

中学生、
そしてファンタジー好きなあなたに
お薦めします。

※堀川アサコという作家には
 これまで注目していませんでしたが、
 何と本作は続編がいくつか
 すでに編まれていて、
 シリーズ化していました。
 近々続編も読んでみたいと思います。

(2019.9.17)

RÜŞTÜ BOZKUŞによるPixabayからの画像

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA