「子を貸し屋」(宇野浩二)

おっさんレンタル、いや「子を貸し屋」

「子を貸し屋」(宇野浩二)
(「子を貸し屋」)新潮文庫

さまざまに商売を替えたあげく
団子屋を始めた佐蔵は、
亡き相棒の子ども・太一を
商売女に貸して
思わぬ金を手にする。
「子を貸し屋」である。
次第に他の女たちからも
頼まれるようになり、
本業よりも子貸し業の方が
繁盛してしまう…。

「おっさんレンタル」という商売が
あることを数年前ネットで知りました。
1時間1000円で
30~50代の男性を貸し出すのだとか。
世の中には
いろいろな需要があるのですね。
令和の現代が「おっさんレンタル」なら、
大正の昔は子どもレンタルならぬ
「子を貸し屋」です。

佐蔵は50過ぎのしがない男。
一緒に暮らす太一は、
亡くなった仕事の相方の残した子ども。
他に身よりもなく、
生前約束をしていたところから
佐蔵が育てているのです。
でも、どんな商売をやっても
うまくいきません。
そこで「子貸し業」となるわけです。

その「子貸し業」とはどんな商売か?
もちろん子どもを貸し出すのです。
それが商売女たちに大人気。
その繁盛ぶりに、
わざわざ自分の子も使ってくれと、
売り込みに来る親も現れ、
立派にビジネスとして
成り立ってしまいます。

黙っていても金が入ってくる愉悦。
その一方で
友人の子を商売に使っている
後ろめたさ。
その狭間で佐蔵は悶々とします。

子どもを借り受ける
女たちの目的は何か?
自分の商売のためなのです。
ところが
はじめに借り出した女・おせきは
やがて太一に情が移り、
一緒に暮らしたいと考えます。
そこへ太一の父親の妻・おみの
(太一の継母にあたる)も現れ、
太一を自分の子どもにしたいと
画策します。
幼い太一を中心に、
佐蔵、おせき、おみのが
綱引きをしているような関係です。

まるで落語のような展開です。
宇野浩二の語るような筆致と相俟って、
旧仮名遣いながら
楽しく読むことができました。

さて、レンタルされている太一は
なんといっても幼い子どもです。
そんな商売の道具にされ、
二人の女からべたべたされ、
まともに育つはずがありません。
太一が行方不明になったところで
物語は突然終わります。

冒頭の「おっさんレンタル」、
自分にもできるかも知れないなどと
ちょっと考えてしまいましたが、
やめておきましょう。
商売の道具になってまで迎える老後に
幸せはなさそうですから。

(2019.12.10)

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