「宇宙人としての生き方」(松井孝典)

宇宙に生きる「宇宙人」としてどう対処していくか

「宇宙人としての生き方」(松井孝典)
 岩波新書

「地球大紀行」というNHKの番組
(昭和62年放送)をご存じでしょうか。
当時の最先端の科学的知見を
世界各地の映像やCGで紹介した
素晴らしい内容でした。
著者松井孝典氏は
その番組の企画・監修・解説を
担当していた方です。
私はその番組を見て以来、
氏の著書を数冊読んできました。

本書は氏の提唱する
「アストロバイオロジー」について
述べられた一冊です。
なにやら難しい理論のようですが、
ビッグバン以降の
150億年という時間スケールで
宇宙・地球・人間・文明を
考える学問という意味でした。
そして現代という時代の問題
(環境汚染・人口爆発)を
地球システムの問題としてとらえ、
宇宙に生きる「宇宙人」として
どう対処していくかを
氏は考察しています。

本書の特徴は、単なる宇宙論や
生命論ではないということです。
そうした自然科学の知見に、
文明論的視点を
加味していることなのです。
氏はここで人間圏の形について、
「フロー依存型」と「ストック依存型」に
分けて論じています。

「フロー依存型人間圏」とは、
人間が農耕牧畜を
営んでいた時代のように、
人間圏というシステムの駆動力が、
地球システムからの
物質・エネルギーの流入に頼って
維持されるしくみのことです。
この場合、物質・エネルギーの流入には
限りがあるため、
人間圏の範囲・規模は
あまり大きくなりません。
そのため安定していると言えます。

一方、「ストック依存型人間圏」とは、
人間圏の内部に駆動力を獲得し、
それによって
地球システムにストックされている
物質・エネルギーを取り出して
利用するしくみのことをいいます。
このとき、
地球システムの物質・エネルギーの流れが
加速度的に増加するため、
人間圏が地球システムに対し、
過度な影響を与えるようになります。
そのため不安定な状態となるのです。

現代はこの「ストック依存型人間圏」に
移行したために、
大量の物質とエネルギーに依存し、
その限界が見えてきた時代と
いえるのです。

「フロー依存型人間圏」、
つまり農耕牧畜の時代に
戻ることなどできるはずもなく、
かといって、
「ストック依存型人間圏」の限界は
すぐ目前に見えている。
人間圏の将来像をどう考えるか。
本来は政治家の役割なのでしょうが、
誰もそんなことを
真面目に考えようとしないから
科学者が書くしかなかったのでしょう。
大人の私たちが自分たちの子孫のために
じっくり読むべき一冊です。

(2019.12.25)

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