「クローディアスの日記」(志賀直哉)

原作は黒、太宰はグレー、そして志賀は白

「クローディアスの日記」(志賀直哉)
(「清兵衛と瓢簞・網走まで」)新潮文庫

「清兵衛と瓢簞・網走まで」新潮文庫

彼は珍しい
いい頭をした男である。
理解力も豊かだし、
それに詩人だ。
自分は近い内に
何もかも語り合って
彼によき味方になって
貰わねばならぬ。
自分は総てを
彼に打ち明けて関わない。
然し今はその時ではない。
彼は今心の均衡を…。

「ハムレット」「新ハムレット」ときたら、
これを取り上げたくなります。
志賀直哉もやはり
「ハムレット」における
直接証拠の乏しさに着目し、
「もしクローディアスが無実で、
暗殺はハムレットの幻想だとしたら」
という仮定で創作したものです。
クローディアスについて、
シェイクスピア原作は黒、
太宰作はグレー、
本作は白という立場なのです。

太宰とちがって、
志賀直哉は真面目です。
クローディアスがしたためた
日記の形態をとり、
彼の目から見た周囲を描くことにより、
ハムレットの幻想による人格崩壊に
現実味を持たせているのです。
また、原作に描かれている事実は
一切変更せず、
その事実をクローディアスは
どう受け止めたかに徹底しています。
その結果、見事に
クローディアス白の物語が
完成しているのです。

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兄嫁との結婚については、
「自分は今度の結婚を
 決して恥じてはいない。」
「心用意があったから
 自分は寧ろ大胆に結婚を申し込み、
 その承諾を得て、それを直ぐ、
 天下に発表することが
 出来たのである。」

国王暗殺の芝居を見たときの
動揺については、
「あの厚顔には感じ易い心は
 巻き込まれずにはいない。
 実際乃公の心は
 見事に巻き込まれた。
 然しこれが事実の証拠として
 何になる!」

そして王妃の部屋の
壁掛けの陰に潜んでいた
ポローニヤスが、
ハムレットに突き殺された報を聞き、
彼は憤慨します。
「彼は彼自身の父の死にあれ程に
 不法な空想をして置きながら、
 人違いから刺した
 ポローニヤスの子供等に対しては
 何とも考えていない。」

ここまでくると、
確かにクローディアスが正しく、
ハムレットが狂人に思えてきます。
原作を読んで、私も
この点が最大の疑問だったからです。

さすが志賀直哉。
原作、太宰作と比較すると、
本作が最も小説として
完成されています。

本作発表は1912年。
その前年には「剃刀」「濁った頭」、
その翌年以降には
「笵の犯罪」「児を盗む話」など、
一連の犯罪小説を書いていました。
作者の想像力が、そうした方面へ
かき立てられていた流れの中で
生まれた作品なのでしょう。

まずはシェイクスピアの原作を読み、
その直後に本作品を読むと、
志賀直哉の想像力の非凡さを
実感できると思います。

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(2020.7.8)

Elias Sch.によるPixabayからの画像

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