「石化人間」「私の農業新聞作り」(トウェイン)

アメリカ人はやっぱりジョークが好き

「石化人間」「私の農業新聞作り」
(トウェイン/柴田元幸訳)
(「ジム・スマイリーの跳び蛙」)
 新潮文庫

しばらく前に、石化した男性が
グラヴリー・フォードの
南の山中で見つかった。
石になったミイラは
四肢も目鼻も完璧に残っていて、
生前は明らかに
義足だったと思われる
左脚すら例外ではなかった。
ちなみに、
故人を詳しく調べた…。
「石化人間」

5年ほど前だったでしょうか、
米Googleが4月1日に合わせて、
エイプリルフール限定サービスを
実施したことがありました。
Googleのメールサービスに、
米アニメのキャラクターを登場させ、
むだなメールのやりとりを打ち切る
仕組みだったかと記憶しています。
アメリカ人はかなり
ジョークが好きなのでしょう。
アメリカのおおらかさを感じます。

ジョークが得意な作家といえば
マーク・トウェインです。
特に短編集である本書は、
ジョーク集といっていいくらいです。

「石化人間」は冒頭の第一編です。
たった1頁半、17行しかなく、
全文掲載も可能なくらいの短さです。
アメリカの山中で石化した
男性の遺体が見つかったことを伝える
記事の形を取っています。
注意力散漫なままに
あっという間に読み終えると、
「これのどこが面白いの?」と
いうことになります。
でも、この石化した人間のポーズは…、
「右手の親指を
 鼻の側面に当てている。
 左の親指はあごを軽く支え、
 人差し指は左の目頭を押して、
 目を半ば開けている。
 右目は閉じていて、
 右手の指残り四本は
 大きくひろげられている。」

実際にやってみると…。

農業新聞の編集長の
「私」が書いた記事に、
老紳士がクレームをつけに来た。
彼が問題視した社説は…、
「カブは決して
 捥ぎ取ってはならない。
 傷んでしまうからである。
 子どもを木に登らせて、
 木を揺さぶらせる方が
 遥かに良い。」…。
「私の農業新聞作り」

実は「私」は、ニセの編集長であり、
バカンスからすぐ戻ってきた本物は、
「私」をなじり、クビにするのです。
しかしその後の「私」の
逆ギレぶりが見事です。
「二流新聞に演劇評を書くのは誰だ?
 演技の知識なんて
 俺の農業の知識とどっこいの
 靴屋や薬屋の徒弟上がりさ。
 書評を書くのは誰だ?
 自分で本なんか一度も
 書いたことのない連中だよ。」
と、
政治、経済、歴史、法律の評論家を
こき下ろし続けます。
トウェインは、もしかしたら
評論家が嫌いだったのかも知れません。

それにしても以上の二編、
発表は1862年と1870年、
明治維新の前後です。
日本の激動の時代に、
海を隔てた米国では、
このようなジョークが
受け入れられていたのです。
何というおおらかさ!

さて、それから150年あまり。
冒頭で紹介したGoogleのサービスは
当時、物議を醸しました。
ジョークで設置したボタンを、
うっかり仕事用のメールで使い、
送信先の相手から
顰蹙を買ったというのが
理由のようです。
アメリカも、どうやら
おおらかさを失いつつあるようです。

(2021.1.5)

Jackie RamirezによるPixabayからの画像

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