「女の子はどう生きるか」(上野千鶴子)

中学生の女の子にぜひ読んで欲しい、進路学習の教科書

「女の子はどう生きるか」
(上野千鶴子)岩波ジュニア新書

30年間中学校教員として
進路指導を行ってきましたが、
毎年疑問に感じているのが
女子生徒の進路意識の低さです。
専業主婦にはなりたくない、と
いいながらも、めざす職業は
(「デザイナー」を除けば)
「サービス業」や「看護師」が
ほとんどです。
進路を現実的に考えている
女子生徒の多くが
「補助的な仕事」を望んでいて、
自分の能力を発揮できる仕事を
敬遠する傾向があるのです。

「引っ込み思案が多い」で
片付けられません。
私の住む片田舎では、
女子が男子と同じように
社会参画する意識がまだまだ
醸成されていないのだと感じます。
子どもたちの間に、
「女の子とはこういうもの」という概念
(進学校ではない普通高校に進学し、
就職し、結婚し、家庭を持つという)が
すり込まれているように感じるのです。

そこからなんとか脱却させたいと考え、
あの手この手で
「君たちがこれから出て行く社会は、
君たちのお母さんが出た社会とは
まったく異なっている」のだと
いうことを教えてきました。
その意識に目覚めた子どもも
何人かはいたのですが、
大勢は大きく変わらないのが実情です。

そんな中、女子中学生向けの
進路学習の教科書ともいえる本に
出会うことができました。
それが本書です。

第1章 学校で、なぜ女子は男子の次?
本書は読者の対象として
中学生高校生を想定しています
(それなのに50を過ぎた
おじさんの私が読んでしまった!)。
読者の最も身近な社会である
「学校」における差別の視点を提示し、
身のまわりにはこんなにも
女子差別が隠れていることに
気付かせる内容となっています。

第2章 家の中でモヤモヤするのは?
ここでは読者の父親母親に関する
女性差別の現状を紹介しています。
働き方について、
家庭での役割分担について、
配偶者との関係について、
進路と進学について、等々、
この部分は義務教育段階の中学生に
伝えたい内容で満ち満ちています。

第3章
リア充になるってけっこうたいへん!?

ここからは高校生に
ぜひ読んで欲しい内容です。
性と身体に関する男子と女子のちがい、
そこから発生する差別について
詳しく説明されています。
「対等な性の在り方」という観点は、
男性の側には抜け落ちがちです。
男性に振り回されないためにも、
こうした視点を身に付けておくことは
大切だと思うのです。

第4章 社会を変えるには?
最後は政治や産業構造に踏み込み、
子どもたちがこれから羽ばたく社会の
矛盾点について指摘しています。
こうした矛盾だらけの社会の前に
おびえるのでもなくひるむのでもなく、
声を上げながら力強く生きていくことを
筆者は説いています。

各章はすべてQ&A方式の
理解しやすい構成となっています。
また、砕けた話し言葉で全編が綴られ、
子どもたちが
とっつきやすい表現になっています。
しかもところどころで
強気ともいえる口調によって、
読み手の心にぐいぐいと
突き刺さってきます。こうした
ある意味過激ですらある主張が、
女子中学生女子高生には
大きな説得力となるはずです。

実は私が「教科書にしたい」と述べた
理由はまさにその点にあります。
教員は一般的な理念として
十分に定着していない見解を述べると
批判にさらされます。
刺激的な事例引用や文言は
管理職から厳しく注意されます
(結果として薬にも毒にもならない
言葉しか発信できない状況です)。
本書の内容や文章は、
教員が言葉や文字に
することができないのです。
一人でも多くの女子中学生が
本書を手にし、著者の思想に触れ、
自分の前に広がっている大きな世界に
気付いて欲しいと
ただただ願うばかりです。

岩波ジュニア新書にはこのような
 良書が豊富に存在しています。
 ぜひ学校図書館に
 置いていただきたいと思います。

(2021.3.22)

Jill WellingtonによるPixabayからの画像

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