「オリヴァー・ツイスト」(ディケンズ)①

これはまさしくエンターテインメントです

「オリヴァー・ツイスト」
(ディケンズ/加賀山卓朗訳)新潮文庫

窃盗団に引きずり込まれた
孤児オリヴァー・ツイストは、
優しい紳士ブラウンローに
保護される。
しかしその幸せもつかの間、
彼は誘拐され、
再び窃盗団に連れ戻される。
押し込み強盗に
加担させられそうになった彼は、
銃撃され…。

チャールズ・ディケンズ初期の名作
「オリヴァー・ツイスト」。
文庫本にして700頁あまりの大作を、
ようやく読み終えました。
「英国文学」といった
お堅いイメージで捉えていましたが、
本作品は紛れもなく
エンターテインメント作品です。
これまで何度も映画化され、
また多くの邦訳が出版されたことが、
それを証明しています。
まずは主要な登場人物紹介から。

【主要登場人物】
オリヴァー
…純粋な心を持った孤児。
 出生に大きな秘密を持つ。
バンブル
…底意地の悪い教区吏。
サワベリー
…葬儀屋を営む。
 オリヴァーを丁稚にする。
ノア
…サワベリーの徒弟。
 オリヴァーをいじめる。
フェイギン
…窃盗団頭目。悪徳ユダヤ人。
サイクス
…フェイギンの仲間。凶悪な犯罪者。
ドーキンス
…スリ少年。面倒見が良い。
ナンシー
…サイクスの情婦。
 身を落としているが根は優しい。
ブラウンロー
…オリヴァーを保護する紳士。
グリムウィグ
…ブラウンローの友人。
モンクス
…オリヴァーを敵視。
 何らかの因縁を持つ。
コーニー婦人
…救貧院婦長。バンブルと再婚。
メイリー夫人
…オリヴァーを保護する老婦人。
ローズ
…メイリー婦人の姪。
 出生の不確かさを気に病む。

本作品のエンターテインメント性①
オリヴァーの大冒険

オリヴァーは救貧院を追い出され、
葬儀屋の丁稚となるのですが、
ほとんど奴隷のような境遇です。
全51章の冒頭こそ、
オリヴァーの悲惨な状況が描かれ、
深い文学的主題が現れる
予感に満ちていますが、
すぐさまオリヴァーの
冒険譚が始まります。
脱走、窃盗団入団、
ブラウンローによる保護、誘拐、
窃盗団再加入、強盗決行、銃撃、
メイリーによる保護と、
めまぐるしく展開します。
子どもが読んでも
大人が読んでも面白い。
これはまさしく
エンターテインメントです。

本作品のエンターテインメント性②
オリヴァーの出生の秘密

オリヴァーは単なる孤児では
ないことが徐々に明らかになります。
その秘密には、
彼を保護したブラウンロー、
そしてローズ、
彼を敵視するモンクス、
なんとコーニーまで絡んでいたという
手の込みよう。
最後の数章は、
ほとんどミステリーの謎解きの様相を
呈しています。
これはまさしく
エンターテインメントです。

本作品のエンターテインメント性③
勧善懲悪・正義は勝つ

悪事を働いたものは、
最後に皆、報いを受けます。
フェイギン窃盗団の
一網打尽はもちろんのこと、
モンクス、そしてバンブル夫妻まで
転落人生を歩みます。
やはりこの世に神はいる。
天網恢々疎にして漏らさず。
この世に悪の栄えた試しなし。
これはまさしく
エンターテインメントです。

ただし本作品についての批評は
作品成立時から
あまり芳しいものではありません。
オリヴァーの冒険譚には
なっているものの
成長物語にはなっていない、
後半になるにつれて
オリヴァーの存在感が薄くなる、
出生の秘密についての
伏線の張りが弱く
後付けのような印象を受ける、
ご都合主義的な部分が
多く見られる、等々、
文句の付け所に事欠かないのは
事実です。
でも、それを含めて
エンターテインメントと
考えるべきだと思うのです。
そうでなければ1838年に刊行され、
以来180年間も
読み継がれる力はなかったはずです。

かなりの長編なのですが、
読書慣れした中学生なら
読みこなせる内容です。
また高校生にも
ぜひ薦めたいと思います。
もちろん大人のあなたにも
自信を持って薦められる一冊です。
なにしろ本作品はまさしく
エンターテインメントなのですから。

(2021.5.10)

David MarkによるPixabayからの画像

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