「ミッツァロのカラス」(ピランデッロ)

強いて挙げるとすれば「不条理」でしょうか

「ミッツァロのカラス」
(ピランデッロ/関口英子訳)
(「月を見つけたチャウラ」)
 光文社古典新訳文庫

昼食に用意したパンを
連日盗まれたチケは、
その犯人が鐘を付けた
カラスであるという噂を聞く。
罠を仕掛けた彼は、
カラスを見事に捕まえる。
仕置きをしてやろうと
カラスをロバに括り付けるが、
ロバはカラスの鳴き声に驚き…。

イタリアのノーベル賞作家・
ピランデッロの短篇作品です。
彼の各短篇には、
どれも独特の哀しみが
漂っているのですが、
本作品に漂っているのは
いったい何なのだろうと、
読み終えて
しばらく考えてしまいました。
理解できないことが多々あるのです。

一つは、このカラスの意味するものは
何かということです。
雄なのに卵を温めたり、
村人たちに悪戯されて付けられた「鐘」を
首に付けたまま飛び回ったり、
普通のカラスとは異なります。
何かを暗示しているようにも
思えますが、まったくわかりません。
一般的には不吉の象徴であり、
結果的には確かに不幸を
もたらしているのですが、
その描写からはそのような
おどろおどろしさは感じられません。
鐘を鳴らしながら飛び回るなど、
むしろ明るい存在です。
本作品は、ポーの「黒猫」のような
ゴシック小説ではなさそうです。

二つめは、なぜチケに
死が与えられるのかということです。
カラスの鳴き声に驚いたロバは
恐怖のあまり猛り狂い、
しまいには崖から落下、
チケとロバは転落死するのです。
確かにチケはカラスに対して
残酷な罰を
与えようとしていたのですが、
その実行前に報いを受けるというのも
ピンときません。
そもそもカラスも
チケのパンを盗み続けたのですから、
チケだけが悪いわけではないのです。
「因果応報」や「勧善懲悪」というような、
下世話な主題でもなさそうです。

作者は結局、
何を表現しようとしたのか?
それがもっともわからないことです。
ゴシック小説でもなく、
道徳的物語でもなく、
一体本作品の本質は何なのか?

強いて挙げるとすれば
「不条理」でしょうか。
主人公・チケにとっても
読み手にとっても
不意を突かれたように現れた
突然の「死」。人生にはそんな
不条理とも呼べる落とし穴が
どこかに仕掛けられているのですよ、と
耳元で囁かれているような気がします。

ピランデッロの作品を
もっと読んでみたいのですが、
文庫本で読める作品集は本書のみです
(ほかには単行本が
現在流通しているのですが、
8千円と高価)。
まずは本書を
じっくり味わおうと思っています。

※収録作品一覧を。
「月を見つけたチャウラ」
「パッリーノとミミ」
「ミッツァロのカラス」
「ひと吹き」
「甕」
「手押し車」
「使徒書簡朗誦係」
「貼りついた死」
「紙の世界」
「自力で」
「すりかえられた赤ん坊」
「登場人物の悲劇」
「笑う男」
「フローラ夫人と
  その娘婿のポンツァ氏」
「ある一日」

(2021.9.22)

Free-PhotosによるPixabayからの画像

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