「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」(村上春樹)

それらは一体何のメタファーとして機能しているのか

「色彩を持たない多崎つくると、
  彼の巡礼の年」(村上春樹)
 文春文庫

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」

多崎つくるは
16年前の大学生時代、
親密な付き合いをしていた
四人の友人たちから
一方的に絶交を言い渡される。
その傷口は現在も
塞がってはいないのだと、
彼は恋人の沙羅から告げられる。
彼は真相を探るべく
四人に会いにいく…。

8年も前のベストセラー小説を、
ようやく読むことができました。
やはり村上春樹らしい、
謎だらけの筋書きです。
そしてその「謎」が、一体何の
メタファーとして機能しているのか、
「わからないこと」だらけです。

【主要登場人物】
多崎つくる
…独身。
 鉄道会社で駅の設計に携わる。
赤松慶(アカ)
…社員研修ビジネス経営。
青海悦夫(アオ)
…高級車ディーラー勤務。
白根柚木(シロ)(ユズ)
…音楽の才能に秀でる。美少女。
黒埜恵理(クロ)(エリ)
…陶芸家。フィンランドへ移住。
木元沙羅
…つくるの恋人。2歳年上。
 旅行会社勤務。
灰田文紹
…つくるの大学時代の友人。
緑川
…灰田の父が学生時代に出会った男。
 ジャズピアニスト。

今日のオススメ!

本作品の「わからないこと」①
色は何を表す?

高校時代の仲のよい5人組のうち、
主人公・つくる以外のメンバーは
名字に色を含んでいる
(赤・青・白・黒)という設定が、本作品の
肝となっている(と思う)のですが、
それはいったい何を表しているのか、
皆目見当が付きませんでした。
作者・村上はつくる自身に
「個性」と捉えているのですが、
それを額面どおりに
受け取るわけにはいかないでしょう。
そしてストーリーには
さらに灰田・緑川まで登場します。
一方で、
重要な役割を与えられているはずの
沙羅は色無しです。

現れる6色は、
赤・青・緑の
有彩色(しかも光の三原色)と、
白・黒・灰の
無彩色の2つに分けられます。
ここにも意味があるのか?
手がかりとなりそうなのは
無彩色の3人は、
つくるの夢の中に現れ、
性交をしているということです。
だとすればさらにその夢は
何の暗示なのか、
男性の灰田までそれに加わっているのは
何を意味しているのか?
考えてもとんとわかりません。

本作品の「わからないこと」②
灰田父と緑川のエピソードの役割は?

灰田が語る灰田父と緑川のエピソード
(死のトークンの譲渡)は
筋書きにはまったく関係ないとしか
思えません。
でも、娯楽小説でもない本作品で、
余計なものを
作者が挿入するはずはありません。
だとすれば一体このエピソードは
何を仄めかしているのか?
考えてもまったくわかりません。

本作品の「わからないこと」③
沙羅は何者?

つくるの恋人、沙羅もわかりません。
正体不明です。
彼女については
つくるの目から見た姿しか
書かれていません。
彼女は別の男性とも親しくしてることが
語られるのですが、
一体彼女はつくるを愛しているのか?

いや、
沙羅の正体や感情はともかくとして、
彼女の存在自体も
別の何かの間接的表現である可能性が
高いとみるべきです。
彼女の存在は何を示唆しているのか?
考えても何一つわかりません。

本筋とは関連のない
ことだらけのように見えて、
もし余計なものが何一つないとすれば、
そしていろいろなことが
解決されていないように見えて、
もし物語は
すべて完結しているとすれば、
本作品に書かれてあることの
ほぼすべてがメタファーである
可能性が高いのでしょう。
村上春樹を読み解くことは難しい。
ノーベル賞候補として
名前が常に挙がるのもうなずけます。

(2021.10.28)

garagebandによるPixabayからの画像

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