印刷が人の思いを伝え、人の思いを形に残す
「活版印刷三日月堂 雲の日記帳」
(ほしおさなえ)ポプラ文庫

三日月堂を
編集者・岩倉が訪れる。
友人の水上が本の出版を
承諾した礼を述べに来たのだ。
出版の条件は
三日月堂で印刷することだった。
「わたし」は岩倉に、仕事の期限を
確認するよう助言する。
なぜなら水上には
もう残された時間が…。
小さな活版印刷所を舞台とした
ベストセラー作品の、
これが完結編です。
今回も全4篇、
4つの素敵な物語が綴られていきます。
本作品の味わいどころ①
ついに弓子が語り手となる
これまでどおり、
三日月堂への仕事の依頼人が
語り手となっています。
第1話では、
プラネタリウム・星空館の開館当時
発売していた星座早見盤の
復刻出版の相談に、
本町印刷の長田が、
第2話では、
大学の卒業制作の雑誌印刷の依頼で、
大学生・豊島が、
第3話では、
大学時代の友人・岩倉から
本の出版を打診された水上が、
ためらいがちに
三日月堂の門をくぐります。
そしてなんと第4話では、
ついに弓子自身が語り手となるのです。
本作品の味わいどころ②
これまでのエピソードの語り手たちが
再登場
今回三日月堂が引き受ける印刷物は、
第1話の星座早見盤、
第2話のパンプレット様の雑誌、
そして第3話第4話で、弓子念願の
本を印刷する運びとなるのです。
それぞれにおいて、実に効果的に
過去の語り手たちや関係者が
三日月堂で今回の依頼者たちと
縁をつくっていくのです。
本作品の味わいどころ③
印刷が人を繋ぐ物語、大団円
これまでは三日月堂を通して、
全話の登場人物が何らかの形で
次話の語り手と繋がるという
形式をとっていたのですが、
本書ではさらに、
過去の登場人物たちが
縦糸横糸として繋がり、
「活版印刷三日月堂」全4巻が、
織り上げた一枚の布として、
一つの完成形を得ています。まさに
印刷が人を繋ぐ物語の完結であり、
堂々の大団円です。
もっとも終末は決して派手でなく、
むしろ静かに
幕を閉じたと言っていいでしょう。
弓子の過去にも特段悲劇的なことが
あったわけではありません。
前巻から登場して
いい雰囲気になっている島本悠生とも、
ごく自然な形で結ばれていきます。
なぜ印刷が人と人とを繋げていくのか。
それは印刷が人の思いを伝え、
人の思いを形に残すために
生み出されたものだからなのだと
気づかされます。
2016年から編まれた本シリーズを、
5年遅れの今年3月から読み始め、
全4巻読み終えました。
爽やかな読後感に包まれるとともに、
その余韻を楽しんでいます。
ありがたいことに
スピンオフ的な2冊も
刊行されていました。
もう少し楽しみたいと思います。
(2021.10.29)

【関連記事:「活版印刷三日月堂」】
【今日のさらにお薦め3作品】
①ファンタジーをどうぞ
「幻想郵便局」(堀川アサコ)
②面白い小説です
「白球アフロ」(朝倉宏景)
③科学しましょう
「生物とコラボする」(工藤律子)
【ほしおさなえの本】
【読書のおともに:Drink】















