記念碑的古典SFである本作品の味わい方
「宇宙戦争」
(H・G・ウェルズ/斉藤伯好訳)
早川書房

火星表面に観測された爆発現象。
その六年後、
イギリス・ロンドン郊外の町に
隕石が落下する。
しかしその物体は
隕石などではなく、
中から現れたのは異形の生物・
火星人だった。彼らは
三本脚の殺戮マシンを使って
人類を攻撃する…。
古典的SFとして
揺るぎない地位を占めている
H・G・ウェルズの「宇宙戦争」。
後の多くのSF作家や映画監督が
本作品にインスパイアされ、
宇宙を舞台とした作品を
編み上げたことを考え合わせると、
まさに記念碑的作品といえるでしょう。
しかし現代の私たちが
本作品を味わうのは
やや困難を伴います。
本作品の味わいどころ①
強烈なイメージを植え付けた
タコ型宇宙人
本作品に登場するのは
例のタコ型宇宙人。
現代ではコミカルな印象しか
与えないのですが、
十九世紀末という時代を考えると
至極当然です。
日本はおろか欧米であっても
まだまだ迷信や伝説が
残っている時代です。
地球人と寸分違わぬ宇宙人よりも、
とびきり異形であったことによる
インパクトが大きかったはずです。
「唇のないただの裂け目だが、
その縁をブルブル震わせてあえぎ、
唾液を滴らせた。
全身が大きく波打ち、
ピクピクと痙攣している。」
「上蓋がとがった奇妙なV字型の口。
眉の隆起はなく、
口の下に顎もない。
絶えず口元を震わせている。
その下から伸びる、
怪物ゴルゴンの髪のような
無数の触手。」
本作品の味わいどころ②
情報が伝わらない恐怖
ネットによる情報網の
発達した現代であれば、
海外で起きた出来事であっても
驚くべきスピードで
情報が伝播していきます。
しかしこの時代、
電信もなかったのですから、
ほんの数km先で起きている
火星人襲来が、
なかなかロンドンまで伝わらないのは
まどろっこしい限りです。
しかしこれも仕方ありません。
当時の状況を考えると、
このまどろっこしさこそが
真実の恐怖だったのでは
ないでしょうか。
本作品の味わいどころ③
随所に現れる予見に満ちた描写
火星人による殺戮場面も
現代からすると時代遅れなのですが、
当時は斬新だったはずです。
毒ガスによる大量殺戮は、
その十数年後に起きた
第一次世界大戦での毒ガス兵器使用を
想起させます(ただし毒ガスそのものは
本作品発表段階でも存在し、
翌1899年には
禁止宣言が出されている)。
また、三本脚の殺戮マシン・
トライポッドが発する
殺人ビームの効果は、
原爆の熱線に酷似しています。
「死体を見ると、
上半身が判別できないほど
焼けただれているのに、
なぜか脚や靴は無傷だ」。
さらには火星人が地球植民地化の
第一歩として火星の種子を植え、
赤い色の植物で大地が覆われる様は、
まさに惑星環境改造であり、
マーズ・フォーミングとでも
いうべきものです。
私たち地球人が遠い将来、
火星に移住するとしたら、
このようなテラ・フォーミングが
必要になるはずです。
考えてみれば、
本作品が発表された1898年は、
和暦に直すと明治31年。
日本の文壇で
国木田独歩が「武蔵野」を発表した年、
遠く海を隔てたイギリスでは
このような作品が
生み出されていたのですから驚きです。
本作品は、もはや古典であり、
当時の状況に照らし合わせて
読み進めなければ、
その真の価値を味わうことは
できないのです。
自分の思考を明治の時代に遡らせ、
本作品をとことん
味わおうではありませんか。
※16頁にわたる「はじめに」を、
「幼年期の終わり」で有名な
アーサー.C.クラークが執筆していて、
こちらも読み応えがあります。
(2021.11.15)

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