「くるみ割り人形とねずみの王さま」(ホフマン)

甥の存在をどう解釈すればいいのか?

「くるみ割り人形とねずみの王さま」
(ホフマン/大島かおり訳)
(「くるみ割り人形と
  ねずみの王さま/ブランビア王女」)
 光文社古典新訳文庫

クリスマスプレゼントの
くるみ割り人形に魅せられた
7歳の女の子・マリー。
彼女はその夜、突如現れた
ねずみの王の率いる軍勢に、
敢然と立ち向かう
くるみ割り人形の姿を目撃する。
マリーは人形の窮地を救おうと
靴を投げつける…。

チャイコフスキー
バレエ「くるみ割り人形」は
何度となく聴いたのですが、
その原作(筋書きはかなり異なる)である
本作品を読むのははじめてです。
こんな素敵な
童話ファンタジーだったとは。
もっと早く出会うべきでした。

【主要登場人物】
マリー
…シュタールバウム家の末っ子。
 7歳。
フリッツ
…マリーの兄。
ルイーゼ
…フリッツ、マリーの姉。
ドロセルマイアー
…上級裁判所顧問官。
 シュタールバウム家に
 出入りしている。
 一家の時計等の修理もしている。
ドロセルマイアーの甥
…最後に現れる若者。

果たしてマリーの体験した
「くるみ割り人形vsねずみの王さま」の
戦いは、本当に起きた事実なのか、
それともマリーの夢なのか?
この現実と虚構が交差する構成は
見事としかいいようがありません。
大人たちの考えているように
マリーの夢であるという
解釈も成り立つし、
マリーは現実にそのような世界を
垣間見たとファンタジーの視点で
捉えることもできるのです。
キーマンはドロセルマイアーでしょう。

冒頭で、ドロセルマイアーは
一家の時計を直すために
度々訪問することが紹介されます。
そして「結び」で、
壊れた時計を修理し終えた
ドロセルマイアーが
「わたしの時計はみんな
ちゃんと動くようになったから」と
告げています。
それはメルヘンのはじまりと終わりを
意味していると考えられます。
マリーの不思議な体験は、
一家の時計が壊れ、
いわゆる「時が止まった」間に
起きたことであり、
再び「時が動き出した」以上は、
メルヘンの完結と
マリーの少女期の終わりを
意味しているものと解釈できるのです。
ところが、
「結び」のそれ以外の部分が
不可解なのです。

一つは、
ドロセルマイアーが連れてきた
甥の存在をどう解釈すれば
いいのかという問題です。
①やはりマリーの夢は本当であり、
 甥はくるみ割り人形の
 魔法が解けた真の姿

②マリーの話にあわせるように、
 ドロセルマイアーが自分の甥に
 あらかじめ言い渡してあった
、と
二通りの解釈が成り立ちます。

①であれば、メルヘンは
まだまだ進行しているのですから、
時計を修理し終えた
ドロセルマイアーの台詞が
無意味になります。
②であれば、甥のくるみ割りの描写
「彼が右手で口にほうりこみ、
左手で髪をぐいと引くと―カチッ―
くるみはみごとに割れるのだ」が
不自然(くるみを自分の口で割る?
なぜ髪を引く?)となるのです。

そしてもう一つは、
「挙式までの一年の期限が過ぎると、
 彼は銀色の馬に曳かせた黄金の車で
 マリーを迎えにきて、
 連れていったそうな」
の一文です。
マリーはその段階で
まだ8歳にすぎません。
非現実的であり、
やはりファンタジーは継続していたと
考えるべきなのでしょうか?

その解答となるべき事実が、
巻末の解説に記されていました。
この物語はもともと、
作者・ホフマン
友人・ヒッツィヒの娘・マリーのために
書いた物語なのだそうです。
実はマリーは、本作品発表の6年後、
わずか13歳で亡くなっています。
ホフマンがヒッツィヒに宛てた書簡には
「当時彼女の表情には死相が表れていた」
ことが記されています。
ホフマンは彼女が遠からぬうちに
別の世界へと召されることを
予見していたのではないかと
思われるのです。
それゆえに、ドロセルマイアーの
好青年である甥とともに
おとぎの国へと旅立つ物語を
創ったのでしょう。

そのホフマンも半年後には
この世の生を終えています。
マリーの後を追うように旅立った
ホフマンこそ、
作中のドロセルマイアーその人
だったのかもしれません。

(2022.1.24)

Herbert AustによるPixabayからの画像

【今日のさらにお薦め3作品】

【関連記事:ホフマン作品】

【ホフマンの本はいかが】

【「くるみ割り人形」のCDはいかが

created by Rinker
Chandos
¥2,970 (2024/06/18 16:51:50時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
Steinway And Sons
¥4,346 (2024/06/18 16:51:51時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
Mariinsky
¥5,936 (2024/06/18 16:51:51時点 Amazon調べ-詳細)

【メルヘンの後はホットココアでも】

created by Rinker
バンホーテン
¥855 (2024/06/18 09:36:11時点 Amazon調べ-詳細)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA