「ある晴れた夏の空」(小手鞠るい)

感情論ではなく、真理を追究する過程こそが必要

「ある晴れた夏の空」(小手鞠るい)
 偕成社

メイは先輩である
ノーマンとスコットから、
夏休みに行われる公開討論会への
参加を求められる。
肯定派・否定派
それぞれ4人ずつでの
ディベート形式なのだという。
そのテーマは、
広島・長崎に落とされた
原爆の是非についてだった…。

2019年の青少年読書感想文
全国コンクール課題図書(中学校)に
選定され、
第68回小学館児童出版文化賞を
はじめとするいくつかの賞を受賞した
話題作である本書を、
ようやく読みました。
最近、課題図書に選ばれる本に、
魅力を感じたことがなかったのですが、
本書は違います。
大人が読んでも
新しい気づきを得ることができる、
深い内容を持っているのです。

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今日のオススメ!

筋書きは至って簡単です。
広島・長崎への原爆投下について、
ノーマン、ケン、ナオミ、
エミリーの肯定派と、
ジャスミン、メイ、スコット、
ダリウスの否定派が
公開討論会を行う、
それを記しただけだからです。
それぞれの論旨の展開は、
大人が読んでも
はっとさせられることばかりです。

8人の高校生たちの論旨は
多岐に拡がりを見せます。
「原爆が使用された理由」
「原爆と真珠湾攻撃の関連」
「人種差別の問題」
「トルーマン大統領の責任」
「ナチス・ドイツと同盟を組んだ
日本の責任」
「日本による中国侵略」
「アメリカ国内での日系人強制収容」
「日本の教科書での
原爆の扱われ方」等々、
私も知らなかったことが
数多く書かれてあります。
一つ一つ取り上げたいところですが、
ぜひ読んで確かめていただきたいと
思います。

これまで私たちは
世界で唯一の被爆国でありながら、
原爆について
その悲惨さだけを取り上げ、
「だから原爆反対」という
あまりにも一本調子な感情論を
繰り返してきたのではないかと
反省させられます。

ロシアによるウクライナ侵略を
目の当たりにして、
昨今の日本では核兵器容認論が
出始めています。
その気持ちは
理解できなくはないのですが、
戦後77年に渡る
核兵器廃絶への取り組みは、実は何も
浸透していなかったのではないかという
やるせなさを感じてなりません。

本当に世界から
核兵器を廃絶していくためには、
過去の広島・長崎への原爆投下を
多角的に検証し、
核兵器廃絶への道筋を
論理的に創り上げていくことこそが
必要なのだと感じます。
感情論ではなく、
いくつもの客観的事実を積み重ね、
多方面から検証し合い、
真理を追究する過程こそが、
これからの平和教育に求められる
ものではないかと思うのです。

さて、激しい論戦で綴られる物語は、
最後は感動的な結末を迎えます。
文学作品として
高いレベルで完結しているのです。
中学生に強くお薦めしたい一冊であり、
大人のあなたにも読んでいただきたい
良書です。

〔原爆関連の本:岩波ジュニア新書〕
原爆関連の本はいくつもあるのですが、
中高生向けの新書本なら
岩波ジュニア新書です。
「綾瀬はるか 「戦争」を聞く」
「1945年8月6日」
「15歳のナガサキ原爆」
がお薦めです。

〔原爆関連の本:小説〕
原爆を扱った小説も
数多く出版されているのですが、
以下をお薦めします。
「黒い雨」(井伏鱒二)
「明日 一九四五年八月八日・長崎」
(井上光晴)
ことさら悲劇を強調するのではなく、
淡々と「起きたこと」(「黒い雨」)と
「起きる前のこと」(「明日」)を
描いています。

〔原爆関連の本:小説以外の文学〕
詩集としては峠三吉を
読んでいただきたいと思います。
「原爆詩集」(峠三吉)です。

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また、戯曲としては
「父と暮らせば」(井上ひさし)は
絶対に読んでおくべき一冊です。

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