「道具にヒミツあり」(小関智弘)

ものづくり職人たちから学ぶべき三つの点

「道具にヒミツあり」(小関智弘)
 岩波ジュニア新書

「道具にヒミツあり」岩波ジュニア新書

道具は主に工場でつくられる。
誰かが考案して設計をする。
その設計図に従って
工場の人たちがそれをつくる。
すると、
考案して設計する人が主で、
それをつくる人は従だと
思いがちである。
ところがそんなに
単純なものではない…。

「はじめに」に書かれてあるとおりです。
そんなに単純なものでは
ありませんでした。
日本のものづくり技術の優秀さは、
決して設計者の設計の優秀さや
工場の機械の優秀さではなく
(それもあるのですがそれ以上に)、
現場で実際にものをつくり出している
職人のたゆまぬ努力があっての
成果であることが、
本書を読めばよく分かります。
しかし「分かる」のは
それだけではありません。
学ぶべき点が多々あるのです。

【本書の章立て一覧】
1 ボールペンの球がよく回転するわけ
2 書いたものをどうやって消すか
3 メガネやカメラが軽くなったわけ
4 思いもよらないファスナーの使い道
5 ケータイの
  モデルチェンジを支えるもの
6 自転車を眺めて考える
7 よく鳴るギターのヒミツ
8 アスリートを支えるシューズ
9 辻谷砲丸がオリンピックで
  メダルを独占したわけ
10 提案型ものづくりが産業を支える
  ―小さな工場の大きな工夫
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日本のものづくりから学ぶべき点①
簡単に「できない」といわない

日本のものづくり技術の優秀さは、
実は町工場の意識の高さにあることが
分かります。
書かれてある工場の職人や経営者、
つまり成功を収めている方々は、
簡単に「できない」と考えないのです。
「できるはず」という前提で
挑戦を繰り返しているのです。
安久工機は、
筆先から蝋がポタポタと流れ出て、
その蝋で絵を描くための、
つまり視覚障害者が指先でさわって
「見る」ことができる筆を開発し、
生田精密研磨は、
「町工場には無理」といわれた
非球面レンズを磨き上げる
機械の開発に成功しています。
アシックスの三村仁司氏は、
オリンピックで勝てる靴を
つくってというアスリートの希望を
叶えて金メダルに導き、
辻谷砲丸は、
中心と重心が正確に一致する、
世界で類を見ない砲丸球で
世界の選手の信頼を
勝ち取っているのです。
簡単に「できない」といわないことが
世界で勝ち抜くための
必要条件なのです。

日本のものづくりから学ぶべき点②
生き残るための「高品質」を目指す

身のまわりには「安い」だけのものが
溢れています。
粗製濫造は、確かに戦後の日本も
通過してきた道です。
しかし生き残るのは
高い品質の「本物」だけであることが
よく分かります。
あまりにもその存在が
当たり前になっている
「ファスナー」ですが、
YKKは、
ジーンズ用のものであれば
「一トンの力、自動車一台
ぶら下げる力に耐えられる」
「一万回の開閉を繰り返して
それに耐えられる」など、
品質の維持に力を注いでいます。
ヤイリギターでは、
木材選定、乾燥、製造、調整まで
すべての工程で
高品質化を図っています。
戦後しばらくの間、米国において
「メイド・イン・ジャパン」は
粗悪品の代名詞だったのが、
70年代には高品質の保証となったのは、
日本のものづくり産業に、
こうした妥協を許さぬ姿勢が
あったからでしょう。

日本のものづくりから学ぶべき点③
新しい価値を創造し、提案する

町工場は今、
注文を待つ受け身の姿勢から、
自ら新技術を提案する時代に
入ってきたことが
本書には書かれています。
新しい技術が新しい製品を生み出し、
新しい需要に応えているのです。
三菱重工が開発した形状記憶樹脂は、
障害者用のスプーンをつくるために
使われ、
ボールペンの先端の球部に
世界地図を描くような、
三菱電機の微細加工の技術は、
自動車の燃料噴射ノズルの
省燃料化に成功するなど、
日本のものづくりは
「攻めの技術開発」に
変わってきているのです。

「簡単に「できない」といわない」、
「生き残るための「高品質」を目指す」、
「新しい価値を創造し、提案する」。
こうしたものづくり産業の姿勢は、
そのまま私たちの生活や仕事に
直接的に応用できるものです。
岩波ジュニア新書の一冊である本書は
中高生に向けて書かれたものですが、
大人であればなお多くのことを
吸収できるはずです。
その辺の自己啓発本などより
ずっと役に立ちます。
騙されたと思ってぜひご一読を。

〔本書の出版年について〕
2007年出版の本書は、
いささか鮮度が落ちていることは
否めません。
第5章で取り上げられているのは
スマホではなく「ケータイ」です。
著者の小関智弘氏に
ぜひ改訂版を出していただければ、
さらに多くの方々に
お薦めできる内容になるのではないかと
考えます。
あ、でも、近年の「偽装」に代表される
日本のものづくり産業の劣化を見ると、
執筆できる内容に限界があるのかも…。

〔関連記事:小関智弘氏の本〕

〔関連記事:岩波ジュニア新書〕

(2022.12.20)

Arek SochaによるPixabayからの画像

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