「淡水微生物図鑑」(月井雄二)

写真、情報が豊富、いや、筆者の情熱が溢れている

「淡水微生物図鑑」(月井雄二)
 誠文堂新光社

「淡水微生物図鑑」誠文堂新光社

原生動物は小さいので、
ゾウリムシ、アメーバ、
アオミドロ、ミカヅキモくらい
知っていれば、
後はたいして違わないだろうと
思っていませんか?
原生動物を知ることは
「生命とは何か?」を理解する上で
非常に重要であるといえます…。

理科教師である私ですら
実はそう思っていました。
主な微生物5つぐらい
(上記4つに加えミドリムシ)を
覚えていればいいだろうと。
そうではありませんでした。
「はじめに」や本文中の文章を読む限り、
筆者はこれら原生動物
「生命の根源」と捉えているようです。

〔本書の構成〕
はじめに
属・種ごとの画像と解説(375属807種)
 鞭毛虫(31属77種)
 肉質虫(59属109種)
 繊毛虫(112属183種)
 不等毛類(37属58種)
 緑藻植物(132属376種)
 その他(4属4種)
テーマ別に原生生物を紹介
原生生物の採取と観察
湿原と原生生物
最新の分類大系について
参考文献・謝辞・索引

今日のオススメ!

本書の「図鑑としての分かりやすさ」①
写真が豊富、
原生生物の全貌を知ることができる

とにかく写真が豊富です。
1頁に写真がぎっしり、
しかも同一種についても
角度や見え方の異なる
数枚の画像を掲載、
特徴的な部分の拡大図、
生息地等を示した画像データ等々、
これだけの画像データを集めたものは
他に見当たらないはずです。
これぞ「図鑑」といった見事な構成です。
一枚の画像のサイズは小さいものの、
一つ一つが鮮明であり、
ペラペラと頁をめくるだけでも
十分に楽しめます。
豊富な画像データで示される分類は、
まさに原生生物の世界の全貌を
正確に捉えることができる、
優れた内容となっています。

本書の「図鑑としての分かりやすさ」②
情報が豊富、観察と分類に実用的

豊富なのは
画像データだけではありません。
テキストデータも盛りだくさん、
いや、恐ろしいまでの情報量です。
最近流行の「おもしろ図鑑」的な要素は
皆無であり、
多少とっつきにくいのですが、その分、
実際の観察と分類作業を行う上では
これ以上のものはない
(手頃な価格のものの中で)でしょう。

ただし、字が細かすぎて、
私の老眼では厳しい状態です。
50代以降の方が使用するには
ハズキルーペが必要です。

「淡水微生物図鑑」誠文堂新光社

本書の「図鑑としての分かりやすさ」③
著者の情熱が豊富、
自然科学の学習に最適

豊富なのは画像データ、
テキストデータだけではありません。
豊富すぎて溢れ出てしまっているのは
著者の情熱でしょう。
自分の持つ情報を
できるだけ多く伝えたい、
というよりも、
自分の捉えている原生生物世界を、
そっくりそのまま
読者に伝えたいという思いを
強く感じます。
膨大な本編部分だけでなく、
「テーマ別に原生生物を紹介」以降の、
巻末的な部分にこそ、
筆者の情熱が込められています。

さて、原生動物が
分裂によって増殖することは、
「同一な自分」をつくることであって、
私たち人間のように
「(自分とは違う)子を産むこと」とは
まったく異なる
生命の紡ぎ方をしているのです。
「同一な自分」をつくって
繋げていくことは
「不老不死」とほぼ同じです。
だからこそ、
原生生物を観察することは、
「生命とは何か」に
行き着くのだと思います。

私たち多細胞生物は、
その「不老不死」を捨てて、
進化の道を選択した生物の
末裔なのです。
図鑑を読みながら、
なぜかそんなことまで
考えさせられてしまいました。
奥の深い本格的な図鑑です。
みなさんも図書館に足を運び、
本書、もしくは本書に近い形の
微生物図鑑、プランクトン図鑑、
原生生物図鑑、そして
自然科学の本
眺めてみてはいかがでしょうか。
「生命」について
考えることができると思います。

(2023.1.10)

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