「森が消えれば海も死ぬ」(松永勝彦)

SDGsの理念を先取り!陸と海と人はつながっている

「森が消えれば海も死ぬ」(松永勝彦)
 講談社ブルーバックス

「森が消えれば海も死ぬ」講談社ブルーバックス

昔から漁民たちは、
魚介類を増やすためには
湖岸、河畔の森林を守ることが
大切なことを知っていた。
それによって木陰が形成され、
水温の急激な上昇を
防ぐとともに、
餌となる昆虫の落下を促すなど、
物理的な好循環が生まれる…。

海と山はつながっている。
近年では周知のことと
なっているのですが、本書は、
そうした陸と海の生態学の
関連性について
正しく理解するための一冊といえます。
難しい用語や知見を排してあるため、
高校生、あるいは
読解力の高い中学生なら
十分に読みこなせる内容です。

〔本書の章立て一覧〕
はじめに
第1章 魚を育てる森
第2章 森が貧しいと海も貧しい
第3章 海の砂漠化
第4章 海と人間のかかわり
第5章 地球環境再生の
     カギを握る森林と海
おわりに
関連・参考図書

今日のオススメ!

第1章「魚を育てる森」、
第2章「森が貧しいと海も貧しい」で、
筆者は森林がどのように
海の生物を豊かにしているか、
生態系のメカニズムを説き明かします。
その説明は
よくある観念的情緒的なものではなく、
あくまでもデータを重視した科学的
(科学者ですから当然なのですが)な
アプローチによってなされています。
昆布に大切な鉄分は、
陸上の森林の腐植土や湿地・水田から
供給されているということなど、
事実を示して
論理的に語られているため、
説得力があります。

第3章「海の砂漠化」では、
そうした生態系のつながりが
切れてしまった結果、海の砂漠化が
進行している現実が紹介されます。
特に、かつていわれていた
「食害説」(ウニやアワビなどが
海藻の芽を食すことに
起因するという説)を明確に否定し、
人間の環境破壊にこそ
その原因があることを
突き止めています。

そして第4章「海と人間の関わり」、
第5章「地球環境再生のカギを握る
森林と海」では、
人間はいかに行動すべきかについて
いくつもの提言がなされています。
バイオマスエネルギーに言及し、
海や森林の
生態系保全のためだけでなく、
カーボンニュートラルの実現に向けても
それが重要になっていることを
詳説している点など、
先見性の高さがうかがえます。

さて、本書の特徴は、前述したとおり、
予備知識なしでも十分理解可能な
内容となっているという点です。
その理由の一つとして、
章を細かくし、短いトピックで
区切っている点が挙げられます。
例えば第1章「魚を育てる森」は、
「1 生命の誕生と森林の生い立ち」から
始まり「5 森と海をつなぐ河川」まで、
5つの中章に分けられているのですが、
「1 生命の誕生と森林の生い立ち」は
さらに「海が育んだ最初の生命」
「最初に上陸した樹木」
「海辺に広がるマングローブ林」と、
3つの小章に分けられているのです。
これが読みやすさにつながっています。

もう一つは、
科学的な理論にとどまらず、
社会科学的側面からの提言もなされ、
私たちの生活により密接した話題が
提供されているという点です。
森林の保全に関わり、
第一次産業の空洞化から雇用問題へ、
さらには二酸化炭素の
排出・吸収バランスから
一人生涯1000本植樹へと
展開していきます。
この社会科学的要素の部分は
若干論理の飛躍が
見られなくもないのですが、
その分身近な問題として
読み手に迫ってきます。

地球環境の豊かさを
維持していくためには、
森林・海洋・人間を
つながりのある系として捉え、
広い空間概念、長期的なスパンで
その維持を考えていかなくては
ならないということがよくわかります。
本書の刊行は2010年ですが、
その5年後の国連サミットで採択された
SDGsの理念を
しっかりと先取りしています。
ぜひ中高生、そして大人のあなたに
読んで欲しいと思う
自然科学の新書本です。

(2023.3.14)

StockSnapによるPixabayからの画像

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