「レントン館盗難事件」(モリスン)

マイルド・ホームズ、探偵ヒューイット

「レントン館盗難事件」
(モリスン/宇野利泰訳)
(「世界推理短編傑作集1」)
 創元推理文庫

「世界推理短編傑作集1」創元推理文庫

盗難事件の捜査の依頼を受けた
ヒューイットは、
レントン館に赴く。
この一年間で三度、
客の宝石が盗まれたのだという。
誰も侵入した
形跡のない部屋で何故?
不思議にも盗まれた宝石が
置いてあった場所には、
マッチの燃えさしが…。

海外の古典的なミステリ作家
アーサー・モリスン。
あのコナン・ドイルと同世代
(ドイルは1859年生まれ、
モリスンは1863年)であるためか、
登場する探偵・ヒューイットは、
ホームズを一回り小さくしたような
印象を受けます。

〔主要登場人物〕
ジェイムズ・ノリス卿
…レントン館の主。
 館で起きた盗難事件の捜査を
 ヒューイットに依頼。
ヴァノン・ロイド
…ジェイムズ卿の秘書。
ヒース大佐夫人
…一度目の盗難の被害者。
 真珠を鏤めた腕輪を盗まれる。
アーミテイジ夫人
…二度目の盗難の被害者。
 安物のブローチを盗まれる。
カサノヴァ夫人
…ジェイムズ卿の義妹。
 三度目の盗難の被害者。
 高価なブローチを盗まれる。
ドラ
…カサノヴァの娘。
 ジェイムズ卿の姪。
マーチン・ヒューイット…私立探偵。

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本作品の味わいどころ①
天才でも偏屈でもない
名探偵ヒューイット

物語はヒューイットの探偵事務所を、
依頼人の使いとして秘書ロイドが
訪問する場面から始まります。
こうした風景は、
ホームズ作品を彷彿とさせます。
ところがこのヒューイット、
訪問者を一目見ただけで
プロファイリングしてしまうような
能力は持ち合わせていません。
また、自分の明晰な頭脳を
ことさら周囲に知らしめようとも
していません。
天才でも偏屈でもない名探偵なのです。
ホームズを一回り小さくした、
というか、
ホームズをマイルドにした
探偵なのです。
このヒューイットの人物像を
まずはしっかりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
殺人ではなく盗難事件

名探偵の解決すべきは
殺人事件ばかりと限りません。
盗難事件も扱うのです。
しかしただの盗難ではありません。
この事件の謎は
以下の3点に集約されます。
(a)侵入した形跡がないのに
 どうやって?
(b)安物のブローチを何故盗んだ?
(c)マッチの燃えさしが
 落ちていたのはなぜ?
(a)については、
決して完全な密室とはいえないまでも、
人が侵入できない、もしくは
侵入した形跡がない中で
盗難が行われている不思議です。
密室殺人は数多くあれど、
密室盗難は
なかなか見当たらないはずです。
(b)については、犯人に
正しい美術品鑑定眼がなかったという
ことも考えられるのですが、
他に一目で
高価と分かるものがありながら、
なぜ安物のブローチを、
危険を冒して盗んだのか?
そこに秘密がありそうです。
そして(c)が最大の謎です。
犯人の遺留品に間違いないのですが、
いったい何のため?
ヒューイットが見事に解き明かす
これらの「謎」を、
十分に味わい尽くしましょう。

本作品の味わいどころ③
最小限の登場人物、犯人は誰?

主要登場人物に示したとおり、
登場人物は限定的です。
名前を与えられているのは
この七人だけなのです。
ヒューイット自身と依頼主、
そして被害者を差し引くと
残る二名だけなのですが、
果たして…?
他に類を見ない犯人捜しを、
じっくりと堪能しましょう。

一通り読み終えると、
後出しの証拠などがいくつかあり、
読み手が謎解きから置いてけぼりに
された感は拭えないのですが、
とにかくユニークです。
そうきたか!と
思わず唸らされる逸品です。

このヒューイット・シリーズは
全部で25作品存在するのですが、
それらはなんと、ホームズ・シリーズの
後釜だったようです。
1894年にホームズ作品は
「最後の事件」によって
連載終了になったのですが、
連載誌「ストランド・マガジン」は、
その穴埋めとしてアーサー・モリスンに
新しい推理小説の連載を
依頼したのです。
それが探偵マーチン・ヒューイット・
シリーズであり、
1894年から1903年まで
連載されました。
ちなみに本作品は、その第一作、
ヒューイット・デビュー作品です。

これまでそれらの翻訳が
数編しか我が国では
出版されていなかったのですが、
2021年にはそれらをすべてまとめた
「完全版」なる一冊が、
ようやく出版されています。
作家モリスン、
そして探偵ヒューイット。
再評価されてしかるべき
ミステリとその主人公です。
ぜひご賞味あれ。

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〔本書収録作品一覧〕
序 江戸川乱歩
盗まれた手紙 ポオ
人を呪わば コリンズ
安全マッチ チェーホフ
赤毛組合 ドイル
レントン館盗難事件 モリスン
医師とその妻と時計 グリーン
ダブリン事件 オルツィ
十三号独房の問題 フットレル
短篇推理小説の流れ1 戸川安宣

(2023.3.24)

Davie BickerによるPixabayからの画像

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