「合成美女」(倉橋由美子)

一言でいえば「支配と被支配の逆転」

「合成美女」(倉橋由美子)
(「たそがれゆく未来」)ちくま文庫

「たそがれゆく未来」ちくま文庫

人間と見分けのつかない
「合成人間」の普及した未来。
倫子は夫を説得し、
ついに贅沢品である
美女型合成人間・ゑり子を
購入する。数日後、
夫はゑり子を秘書として
仕事に連れ出し始める。
倫子には夫とゑり子の間が
気になりはじめ…。

人はなぜ「人型ロボット」に憧れるか?
それは「支配できる他者」が
欲しいからではないかと
思うときがあります。
機械じみたロボットであれば
それは単なる「モノ」に過ぎません。
それが人間と見まごうもので
あればあるほど、
それを所有することによって、
自分が一段高い人間になったことを
錯覚できるのでしょうから。

本作品に登場する合成人間購入者たちも
そうだと考えられます。
「合成人間」を女中(何とも古めかしい
言葉が登場するくらい
過去の作品なのです)として使い、
富裕層としての自分を
満喫しているのです。

その合成人間が若い美女となると、
夫が妻よりも合成人間に
ぞっこんになってしまうのでは?
予想通りの展開です。
ゑり子を秘書として
仕事に連れ出しはじめた夫に対して、
倫子は疑いの目を向けます。
その疑惑は膨らみ続け、
ついには爆発し、
倫子はゑり子を破壊してしまうのです。

と書けば、予想通りの
ありきたりの展開に
思えるかも知れませんが、
衝撃的な結末はその後に現れます。

ネタバレを避けながら
その衝撃を表すのは
至難の業なのですが、
一言でいえば
「支配と被支配の逆転」です。
それまで自分たちが支配してると
思っていたものが、
実は密かにそれらに支配されていた。
そしてそれは社会の隅々まで
あまねく広がっているらしい。
読み手にそれを暗示して
物語は幕を閉じます。

合成美女が世の中に出回るのは
まだまだ先のことでしょうが、
私たちの世界には
静かにAIが浸透してきています。
人間がAIを
使いこなしているかのように見えて、
実はAIの指示を
人間が忠実に実行しているだけだった、
という時代が
近い将来こないとも限りません。
支配と被支配の逆転が
起こりうるとすれば、
それは人間とAIの関係でしょうか。

さて、本作品が発表されたのは1961年。
なんと60年前の
高度経済成長期なのです。
作者・倉橋由美子には、
社会にモノが溢れ出し始めた時代の
その延長線上に、このような未来が
見えていたのかも知れません。

※高校生あたりに薦めたいテーマを
 持った作品なのですが、
 倉橋特有のえげつない表現が
 そこここに
 ちりばめられているため、
 本書はやはり大人の読書本です。

(2020.3.24)

Stefan KellerによるPixabayからの画像

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