「なぜヒトだけが老いるのか」(小林武彦)

シニアは社会にとって必須の存在

「なぜヒトだけが老いるのか」
(小林武彦)講談社現代新書

「なぜヒトだけが老いるのか」

「老い」とは
いったい何なのでしょうか?
人にとって
老いは必要なものなのです。
もっと言うと、
老いを実感しているシニアは
社会にとって必須の存在であり、
「老い」のおかげで
人類の寿命が延び、
今の文明社会が築かれたと
思っています。…。

老いるのは人間だけで、
他の動物は老いずに死ぬ。
目から鱗でした。
すべての動物が等しく老いて
等しく死を迎えるものとばかり
思っていました。
疑ってすらいませんでした。
もしかしたら幼児の頃、
年老いた動物が登場する童話や昔話で
すり込まれたのかも知れません。
老いるのはヒトだけだったとは!

本書の著者・小林武彦氏は、
ゲノムの再生、およびそれに関わる
老化の現象を研究している
生物学者です。でも本書は
難しい生物学の本ではありません
(生物学の本として読むと、
肩透かしを食らうでしょう)。
ヒトとしての生き方を説いた
哲学書のように、
私には感じられました。

〔本書の内容〕
第1章 そもそも生物はなぜ死ぬのか
第2章 ヒト以外の生物は老いずに死ぬ
第3章 老化はどうやって起こるのか
第4章 なぜヒトは
    老いるようになったのか
第5章 そもそもなぜシニアが必要か
第6章 「老い」を老いずに生きる
第7章 人は最後に老年的超越を目指す
おわりに
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第1章では、生物の遺伝の仕組みを
RNAやDNAから解説しています。
RNAやDNAが変化することによって
生物は進化し、それとともに
「死」を得るに至ったことが、
詳しく説明されているのです。
そこを出発点として、
第2章では問題提起がなされています。
野生動は基本的に老化しないという
事実が示されるのです。
注意すべきは、
「老化しない」ことは「死なない」ことを
意味せず、「突然死ぬ」ことなのです。
考えてみれば、
食物連鎖の中に生きる動物は、
「食べられて死ぬ」か、
「食べることができずに餓死する」かが
ほとんどで、運良く生きながらえても、
いずれ心臓に限界が来て
「突然死ぬ」のです。
そこに「老い」は
存在しないということなのでした。

第3章・第4章では、
「老化」のメカニズムについて、
DNAレベルで詳しく紹介し、
ヒトと他の動物の違いについて
解き明かしています。
そして第5章は、
「シニア」の必要性について
迫っています。
筆者のいう「シニア」とは、
単なる年齢による
老人の区別としてではなく、
「集団の中で相対的に経験・知識、
あるいは技術に長じた、
物事を広くバランス良く
見られる人」として定義しています。
「分業社会」をつくる生物集団にとって
「シニア」は必要不可欠であることを
解き明かしているのです。

シニアの役割については、
次の一節に集約されているといって
いいでしょう。
「シニアの最大のミッションとして、
 絶対に阻止しなければならないのは、
 次世代が使う環境を破壊し、
 資源を枯渇させることです。
 「シニア」になりきれていない
 「なんちゃってシニア」が
 「どうせ自分たちは
 そのうち死ぬのだから、みんな
 好き勝手にやりましょう」的な発想を
 持っていたとしたら最悪です」

そして第6章・第7章では、
「老い」の正しい迎え方について
提言がなされています。
否定的・悲観的に捉えるのではなく、
「老い」の正体を知り、
「シニア」にしかできない
役割を果たしながら、
達観的に生き、達観的に死ぬための
心構えが書かれてあるのです。

昨今のニュースを見ると、
老人の孤独死や特殊詐欺被害、
老後破産や老老介護など
少子高齢化の負の側面だけが
延々と報じられています。
それはそれで問題であり、
社会全体で解決すべき
事案であるのですが、
せめて私たち一人一人は
明るく前向きに「老い」を
迎えていきたいものだと感じました。
「老い」はヒトだけに存在し、
誰にとっても避けることにできない
ものであるならば、
その「老い」をどう生きるかが、
人生で最も大切な
主題であるような気がします。

アンチエイジングや健康法などで
肉体的な「老い」を遅らせることも
大切なのでしょうが、
それだけにとらわれては
いけないのでしょう。
見た目は若いけれども
明らかに「老害」となっている人間より、
年齢に見合った
精神的成熟を果たした人間に
なりたいと思います。
難しそうですが。

私のように、
そろそろ還暦が見えてきた方に
ぜひ一読をお薦めしたい一冊です。

〔著者:小林武彦氏の本〕

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(2023.8.28)

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