「江戸川乱歩全集第4巻 孤島の鬼」(江戸川乱歩)

両者ともどことなくギクシャクした感じ

「江戸川乱歩全集第4巻 孤島の鬼」
(江戸川乱歩)光文社文庫

「江戸川乱歩全集第4巻 孤島の鬼」

「孤島の鬼」
「私」が愛した女性・初代は、
ある夜、しっかりと戸締まりが
なされた自宅で、何者かに
心臓を刺されて殺された。
「私」はその敵討ちのため、
探偵趣味の友人・深山木に
調査を依頼するが、
彼もまた何者かに
白昼衆人環視の中、
刺殺される…。

光文社文庫「江戸川乱歩全集第4巻」を
再読了しました。
第4巻はたった2作品で
650頁(解説等含む)という
ボリューム感ある作品集です。
1929年に発表された「孤島の鬼」、
そして翌1930年に発表された
「猟奇の巣」、
両者のような長篇作品は、
それまで乱歩は書いていません。
江戸川乱歩初の
長篇作品といっていいのです。
そのためでしょうか、
両者ともどことなく
ギクシャクした感じが否めないのです。

「孤島の鬼」は、前半部と後半部で
毛色が異なっています。
前半部はそこで発生した二つの事件
「密室殺人」と「衆人環視の中での殺人」の
謎解きなのですが、
「密室殺人」の謎を解いた探偵役が
そのあと殺害され、
「衆人環視の殺人」の解明を
二番手探偵役が行うという、
なんとも先の読めない展開なのです。
続く後半部は、
主人公とその二番手探偵が、
その背後に潜む本当の敵と
対峙するという構成なのです。
本格探偵小説で始まったものが、
紆余曲折を経て、冒険サスペンスへと
転化して完結するという印象です。

途中交代した二番手探偵も、
終末に近づくにつれ存在感を薄め、
最後の締めは三番手探偵に譲ります。
まるで早々と打ち込まれた
先発投手に代わって
二番手がロングリリーフ、
九回裏をストッパーが
きっちり締めくくったというような
探偵交代劇です。

「猟奇の果」
猟奇を好む男・青木愛之助は、
いつも刺戟に飢えていた。
ある日、彼は友人で出版社を営む
品川四郎と瓜二つの掏摸、
「幽霊男」と遭遇する。
やがて幽霊男は青木の前に
頻繁に姿を現すようになり、
ついには青木の妻・
芳江をたぶらかし…。

もう一つの「猟奇の果」に至っては、
「前篇 猟奇の果」と「後篇 白蝙蝠」で、
まったく別の作品ではないかと思うほど
そのスケールと世界観が
大きく転換します。

前篇は正体不明の幽霊男の存在が
次第に大きくなるにつれ、
変態趣味からエロス、
そしてサド・マゾ、
さらには猟奇的殺人に行き着くのです。
友人とまったく同じ顔の男がいるという
奇妙な事実が、
やがては自分の妻を
寝取られたのではないかという恐れ、
そして自らが殺人を犯す恐怖へと
つながれ、読み手の背筋は
次第に寒くなっていくのです。
まさに大人のサスペンスです。

ところが後半は一転、
幽霊男は「白蝙蝠団首領」と昇格し、
なんと名探偵・明智小五郎まで出陣、
明智小五郎対白蝙蝠という、
まるで少年探偵団張りの
ジュヴナイル・テイストで
満ちあふれてくるのです。
本作品発表の6年後、
「怪人二十面相」が雑誌掲載されます。
怪人二十面相の原点が
「悪の秘密結社・白蝙蝠団」として
ここにあるのです。

「孤島の鬼」「猟奇の果」ともに
完成度が高いとはお世辞にもいえない
作品ではあります。
しかし両作品が発表されたのは
昭和4年から5年にかけてのことです。
当時、このような長編探偵小説は
まだまだ珍しく、黒岩涙香の翻案ものの
「幽霊塔」ぐらいしかなかったのです。
当時の読者はさぞかし
胸をときめかせながら
読みふけったのではないかと
思うのです。

この二篇から次第に乱歩の長篇は
猟奇性を強め、
傑作作品群が誕生していくのです。
その源流であるこの二作品を、
心ゆくまで味わいましょう。

〔青空文庫〕
「孤島の鬼」(江戸川乱歩)
「猟奇の果」(江戸川乱歩)

〔明智小五郎の事件簿〕

〔光文社「江戸川乱歩全集」〕

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PexelsによるPixabayからの画像

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