「医師とその妻と時計」(アンナ・キャサリン・グリーン)

真相究明より衝撃的感動的な、終末のドラマ

「医師とその妻と時計」
(アンナ・キャサリン・グリーン)
(「世界推理短編傑作集1」)
 創元推理文庫

「世界推理短編傑作集1」

ニューヨークの高級アパートで、
事業家ハスブルック氏が
殺害されるという事件が起こる。
犯人は何一つ
痕跡を残していなかったため、
事件は迷宮入りする。
担当刑事グライスは、
その隣家の盲目の医師
ザブリスキーに興味を覚える…。

江戸川乱歩が編んだ
「世界推理短編傑作集1」に
収められている一篇です。
手がかりの全くない事件を
どう解決するのか?
グライス刑事の興味が、
次第に事件を解き明かしていく様は
爽快です。

〔主要登場人物〕
エベニーザー・グライス
…ニューヨーク市警刑事。
 事件を担当し、真相を究明する。
D警部
…捜査にあたった警察官。
ハスブルック氏
…殺害された男。恨みを買うような
 人間ではないという。
サイラス
…ハスブルックの家の老僕。
コンスタント・ザブリスキー
…ハスブルックの隣に住む盲目の医師。
ヘレン・ザブリスキー
…コンスタントの妻。
ハリイ
…ザブリスキーの雇われ運転手。
 事件のあった日の翌日、
 一方的に解雇されている。
シオドア・スタントン
…コンスタントの友人。事件の当日、
 コンスタントに接触したことを
 ハリイが目撃。
T氏
…事件のカギを握っていると思われる
 人物。
ジョー・スミザーズ
…グライス刑事が協力を要請した人物。
 T氏と会談する。

本作品の味わいどころ①
手がかりのない事件を追うグライス

ハスブルック氏殺害事件は、
最初の10頁で
事件は一端迷宮入りしてしまいます。
まったく手がかりのない事件であり、
それも当然であり、
これでは捜査に当たったのが
デュパンであってもホームズであっても
解決できないでしょう。
ただし、その10頁に
不自然に入り込んでいるのが、
グライスが目にした
隣家の盲目の医師とその妻。
事件捜査の糸口は、
当然そこにしかありません。
グライスは、医師夫妻に
捜査の手を伸ばすのですが、
果たして結果は?
刑事グライスの根気強い捜査が、
本作品の第一の味わいどころです。

本作品の味わいどころ②
盲目の医師が殺人を自供、真実は?

そのザブリスキー医師ですが、
グライスが話を聞きにいったところ、
すぐさま犯行の自供し、
逮捕することを懇願するのです。
妻ヘレンは、気が狂ったような
夫の言動にオロオロするばかり。
果たして真実は?
本当に盲目の医師が
隣家のハスブルック氏を射殺したのか?
それとも医師は
誰かをかばっているのか?
あるいは妻の心配通り、医師は
気が変になってしまっているのか?
驚きの真相が
見えてくることになるのです。
自供の真偽を考えるという
他に例を見ないミステリ、
それが本作品の
第二の味わいどころです。

本作品の味わいどころ③
真相究明より感動的な終末のドラマ

その衝撃的な真相が
明らかになるとともに、
それ以上の衝撃的なドラマが
終末に用意されています。
本作品はミステリとしても
一級でありながら、
人間ドラマとしても
超一級の筋書きを有しているのです。
その一節の文章も見事です。
「警察はこの事件の真相を
 公表しないで握りつぶすという
 権限を行使したので、
 その場にいた人間にとっては、
 この破局は
 恐ろしい思い出となって残った。
 これがわれわれのささやかな
 心づくしだった」

結末に仕掛けられた衝撃、
それこそが本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。

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今日のオススメ!

本作品の作家
アンナ・キャサリン・グリーンは、
アメリカの女流作家であり、
女性で初めて長編推理小説を書いた
人物と言われています
(1878年に著した
「リーヴェンワース事件」が
それにあたります)。
女性ならではの視点から
描かれた情緒が、
しみじみとした感動を与える本作品、
ぜひご賞味ください。

〔本書収録作品一覧〕
序 江戸川乱歩
盗まれた手紙 ポオ
人を呪わば コリンズ
安全マッチ チェーホフ
赤毛組合 ドイル
レントン館盗難事件 モリスン
医師とその妻と時計 グリーン
ダブリン事件 オルツィ
十三号独房の問題 フットレル
短篇推理小説の流れ1 戸川安宣

〔A.K.グリーンの本について〕
日本語訳されたものを
探してみたのですが、
2014年に創元海外ミステリから
出版された一冊が引っ掛かるのみです。

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