「闇から来た少女」(眉村卓)

来たのは迷惑系美少女未来人!

「闇から来た少女」(眉村卓)
(「二十四時間の侵入者」)角川文庫

この団地には
美少女の妖怪が現れる。
その噂話をまったく
信じていなかった克雄だったが、
彼が出会った美少女・
大森由美子は、
彼の目の前で煙のように
姿をかき消してしまう。
再び現れた由美子は、克雄を
別の世界へと連れ去るが…。

眉村卓の中編SFジュヴナイルです。
表題作で併録の
「二十四時間の侵入者」とともに、
中学生時代に読みました。
今回40数年ぶりの再読です。
中学生のときの心に戻って、
ワクワクしながら読みました。

〔主要登場人物〕
長原克雄

…王子町団地に住む中学校一年生。
 卓球部員。
長原靖子
…克雄の姉。卓球元国体選手。
 克雄に卓球を仕込む。現在OL。
池上陽介…克雄の同級生。
目黒和子…克雄の同級生。卓球部員。
大森由美子
…王子町団地に現れた謎の美少女。
 克雄を別の世界へ連れ去る。
「青年」…由美子の兄。研究員。

本作品の味わいどころ①
妖怪?いやタイムトラベラー

主人公の中学校一年生・長原克雄に
なれなれしく近づいてきた
美少女・大森由美子。
ホラー小説であれば正体は
妖怪ということになるのでしょうが、
本作品はSFジュヴナイル。
となれば、彼女は
異次元人か未来人かのいずれかです。
読み進めるといずれわかるのですが、
正体は後者の方です。

ジュヴナイルのいいところは、
登場人物が対象となる
読み手の年齢とほぼ同じこと。
かつてこの克雄に気持ちを同化させて
読んだ記憶があります。
正体はどうであれ、
美少女になれなれしく近づかれるなら、
悪い気持ちなどするはずがなく、
心がときめく思いがしてしまうのです。
この、美少女タイムトラベラーとの
接触という設定こそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
来たのは迷惑系美少女未来人

この美少女タイムトラベラー・
大森由美子、克雄を未来に
連れてきたのはいいのですが、
そこには特に理由もなく、
いわば面白半分。
実はその時代の規則により、
未来へ来た過去の人間は、
歴史の改変に関わる恐れがあるので
帰還厳禁なのだというのです。
未来に来たはいいものの、
帰えることができなくなってしまった
克雄。
いやはや、由美子はなんと
迷惑系の未来人だったのでした。
でも、それでも
心がときめく思いがしてしまうのです。
この、迷惑系美少女未来人の
困ったいたずらという設定こそ、
本作品の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
切ない結末、美少女との別れ

もちろんそのまま
未来で生活するわけにはいきません。
とらえられた克雄を由美子は解放し、
一緒に過去へと戻るのですが、
今度は由美子が過去から
戻られなくなるのです。
克雄は由美子と一緒に暮らすのか!?
もちろんそんなことはありません。
最後にほろ苦い結末が
用意されているのです。
この、美少女・由美子との
切ない別れこそ、本作品の最後の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

中学生向け作品(学習系雑誌に
掲載されたはず)であるため、
筋書きは浅く、
完成度という点では今ひとつで
あることは間違いありません。
未来へ連れて行かれるものの、
その風景を見ただけで、
まったく未来体験はしていないのです。
そうした難点はあるものの、
それは大人目線でのことにすぎません。
中学校一年生の心に戻って
読み味わえば、
ノスタルジックにも似た、
懐かしい空気感に包まれること
間違いなしです。
かつて少年だったあなたに、
お薦めします。

〔描かれる未来について〕
本作品は1967年に発表されました。
克雄が見た未来の大阪は、
「おそろしく高い
 ビルの群れなのであった。
 それも何百階という高さの、
 おたがいにチューブのようなもので
 つながりあった
 異様な形のビルなのだ」

描かれているのが70年後の
世界だとすれば、
それは2030年代となるはずです。
あと5年もすれば本作品の描く
「未来」になるのですが、
何百階のビルどころか
「あべのハルカス」ですら60階です。
確かに私たちが幼い頃、
つまり高度経済成長期に描かれた未来は
そのようなものでした。
残念ながら日本も世界も
右肩上がりの成長を維持できず、
むしろ縮小していく道を歩むとは、
誰も想像すらできなかったでしょう。
いろいろなことを考えさせてくれます。

(2025.4.27)

〔関連記事:眉村卓の作品〕
「なぞの転校生」(1967)
「侵された都市」(1967)
「まぼろしのペンフレンド」(1970)
「テスト」(1970)
「時間戦士」(1970)
「さすらいの終幕」(1970)
「ねらわれた学園」(1973)
「0からきた敵」(1973)
「ねじれた町」(1974)
「地獄の才能」(1975)
「閉ざされた時間割」(1977)
「少女」(1977)
「白い不等式」(1978)
「原っぱのリーダー」(1992)

〔角川文庫・眉村卓作品〕

Susana CiprianoによるPixabayからの画像

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