
つまり「ヤング・シャーロック」を味わう
「グロリア・スコット号」
(ドイル/日暮雅通訳)
(「シャーロック・ホームズの回想」)
光文社文庫
ホームズが「わたし」に見せた
短い手紙、
それはまったく意味をなさない
文章だった。
しかしホームズは、それが
消えたグロリア・スコット号に
関わるものであること、
そしてそれを見た人物が
恐怖のあまり
ショック死したことを告げる…。
ドイルの
シャーロック・ホームズ・シリーズの
短篇作品第17作目です。
ホームズがワトソンに見せた
短い手紙は、
意味の通じない奇妙なものでした。
そこからどんな事件が始まるのか?
〔主要登場人物〕
シャーロック・ホームズ
…探偵コンサルタント。
「わたし」(ジョン・H・ワトスン)
…語り手。医師(元軍医)。
ホームズの手がけた事件を記録し、
小説として公開している。
ヴィクター・トレヴァ
…ホームズの大学時代の友人。
トレヴァ老人
…ヴィクターの父親。治安判事。
ベドウズ
…トレヴァ老人のかつての友人。
ハドスン
…トレヴァ老人の前に現れた脅迫者。
ジャック・プレンダーガスト
…囚人輸送船グロリア・スコット号に
入れられた囚人。
本作品の味わいどころ①
ホームズが探偵を志した一件
次にホームズがワトスンに語ったのは、
大学時代の思い出話です。
友人ヴィクターの実家に招かれ、
一か月滞在した際、
その父親トレヴァ老人とのやりとりが、
ホームズに
自らの才能を気づかせたのです。
例によって観察から
プロファイリングを行い、
ホームズは老人の秘密を
次々と指摘していくのです。
「十二か月の間、
他人からの襲撃を警戒していた」
「若い頃ボクシングをしていた」
「以前、かなり穴掘り(鉱山採掘従事)を
していた」
「ニュージーランドにいた」
「日本に行ったこともある」
「J.A.というイニシャルの人物と
親密だったのに、
それを忘れたいと思った」と、
次から次へと指摘、ついには老人から
「これを一生の仕事になさるがいい」と、
才能を認められるのです。
この、学生時代から
探偵としての才能を発揮する
若きホームズの姿こそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。
本作品の味わいどころ②
ホームズが解き明かした暗号
「ロンドン向けの猟鳥の供給は
着実に増加しつつある。
猟場管理人頭ハドスンは、
わたしの信ずるところ、
ハエとり紙と
あなたのメスのキジの
生命保護に関する注文を
受けよという指示を、
すでに受けている。」
まったく意味不明です。
実は英文のままであれば読み手にも
解ける可能性があるのですが、
日本語訳してしまえば
解きようがないという代物なのです。
詳しくは読んで
確かめていただきたいとしか
いいようがありません。
決して難しい暗号ではないのですが、
短時間で解き明かした
ホームズの手腕は見事です。
暗号解読部分の説明ですが、
本書・日暮雅通訳は、
原文(英語)を示した上で、
わかりやすく伝えています。
ところが青空文庫収録の
三上於莵吉訳は、原文が示されず、
ちんぷんかんぷんな状態です。
他の訳者はどのように処理しているのか
気になるところです。
いずれにしてもこの、
暗号を難なく解き明かす
若きホームズの姿こそ、
本作品の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。
本作品の味わいどころ③
トレヴァ老人の恐るべき過去
本作品の中盤以降は、
トレヴァ老人の語る過去
「グロリア・スコット号失踪事件」が
読み手を驚かせる
しくみとなっています。
その内容については、やはり
読んで確かめていただきたいとしか
いいようがありません。
この、衝撃の
「グロリア・スコット号失踪事件」の
真相こそ、本作品の第三の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。
実は本作品におけるホームズの活躍は、
「プロファイリング」「暗号解読」の
二つまでです。
トレヴァ老人の過去が語られたあとに
どんな展開があるのかと期待してみると
何もないのです。
つまり「トレヴァ老人恐喝事件」も
「グロリア・スコット号失踪事件」も、
未解決のまま(どちらも
解決のしようのないものなのですが)
物語は幕を閉じるのです。
本作品について、
「ホームズが手掛けた最初の事件」とする
見方が多いのですが、
正確には
「ホームズが出会った最初の事件」に
過ぎないのです。
ホームズの暗号解読の
成否にかかわらず、
事件は何も進展しないからです。
しかしホームズの過去、つまり
「ヤング・シャーロック」を
味わうことこそが大切なのです。
ぜひご賞味ください。
(2026.1.23)
〔「シャーロック・ホームズの回想」〕
名馬シルヴァー・ブレイズ
ボール箱
黄色い顔
株式仲買店員
グロリア・スコット号
マスグレイヴ家の儀式書
ライゲイトの大地主
背中の曲がった男
入院患者
ギリシャ語通訳
海軍条約文書
最後の事件
注釈/解説
エッセイ「私のホームズ」旭堂南湖
〔関連記事:ホームズ・シリーズ〕


〔光文社文庫:ホームズ・シリーズ〕
「緋色の研究」
「四つの署名」
「シャーロック・ホームズの冒険」
「シャーロック・ホームズの回想」
「バスカヴィル家の犬」
「シャーロック・ホームズの生還」
「恐怖の谷」
「シャーロック・ホームズ最後の挨拶」
「シャーロック・ホームズの事件簿」
ホームズ・シリーズは
いろいろな出版社から
新訳が登場しています。
私はこの光文社文庫版が一番好きです。

【今日のさらにお薦め3作品】



【こんな本はいかがですか】




