「ナイチンゲール荘」(クリスティ)

アリクスは生き延びられるか、それとも…

「ナイチンゲール荘」
(クリスティ/田村隆一訳)
(「リスタデール卿の謎」)
 ハヤカワ文庫

「夜鶯荘」(クリスティ/中村能三訳)
(「世界推理短編傑作集3」)
 創元推理文庫

ジェラルドと結婚した
アリクスは、
恐ろしい夢を三度も見る。
死体となった夫が
横たわっていて、ディックが
それを見下ろしている。
夫を死に至らしめたのが
彼の手だった。
なお恐ろしいことに、
夢の中の彼女は
夫の死を喜んでいた…。

アガサ・クリスティ
短篇ミステリです。
クリスティのすべての作品を
収録しているハヤカワ文庫では
「ナイチンゲール荘」という表題ですが、
創元推理文庫の
「世界推理傑作短編集3」の
「夜鶯荘」のほうが、
日本ではなじみがあるのではないかと
思われます。
結婚したばかりのアリクス、
夢の中で夫の死を喜ぶのはなぜか?

〔主要登場人物〕
アリクス・マーティン

…有能なOLだったが、思いがけない
 遺産を相続し、退職。その後、結婚。
ジェラルド・マーティン
…アリクスの夫。何事も予定を立てて
 実行する几帳面な性格。
ディック・ウィンディーフォード
…アリクスを愛していたが、
 切り出せないまま
 ジェラルドに奪われる。
ジョージ
…ナイチンゲール荘の老庭師。
チャールズ・ルメートル
…ジェラルドの保管していた新聞記事に
 名前の載っていた男。

本作品の味わいどころ①
ディックはストーカーか、それとも

お互いに言葉には出さないものの、
相思相愛だったディックとアリクス。
しかしアリクスは知り合って
一週間ばかりのジェラルドと
婚約してしまうのです。
これはディックが悪いのです。
十一年もそうして想いを内に秘め、
アリクスが遺産を相続すると
一層頑なになり、自らの気持ちを
明らかにしないのですから、
奪われても
文句のいいようがないはずです
(まあ、そこがディックという人間の
性格なのでしょうから
仕方ないのですが)。

しかしそのディックは、
アリクスへの思いを
断ち切れないのでしょう。
アリクスの住むナイチンゲール荘を
訪問したいという
電話をかけてくるのです。
折しもアリクスが不吉な夢を見たときと
重なっているのです。
もしやディックはストーカー?
これからディック、アリクス、
ジェラルドが三角関係となって
破局を迎える?
もしやそれが本当に殺人に結び付く?
さまざまな悪い予感を想起させます。
この、ストーカーまがいの
ディックの存在こそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
ジョージはぼけた老人か、それとも

ところが、
アリクスに不安を投げかけるのは、
老庭師のジョージです。
ジョージはアリクスとの会話の中で、
彼女の知らないことを話すのです。
出かける予定など組んでいないのに
「明日、ロンドンへ
お出かけなんじゃありませんか」、
屋敷の購入費用は
三千ポンドだったはずなのに
「売値は二千でございましたよ」。
もしかしたらジョージは
老人ぼけが始まっているのか?
いやいやそれでは物語が進行しません。
つまりは
アリクスが夫から聞いていることと、
ジョージの把握している事実には、
食い違いがあるということなのです。
そこからアリクスには
疑念が生じてくるのです。
この、アリクス、そして読み手にまで
不安の種をまく
ジョージの絶妙な存在感こそ、
本作品の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
ジェラルドは優しい男か、それとも

そこまで読んでも、
夫であるジェラルドには
不審な点は見当たりません。
しかしアリクスは
自身に芽生えた疑念を解消するため、
夫の部屋を捜索するのです。
読み手はアリクスの目線となって、
アリクスとともに
ジェラルドの秘密を探る探偵役となり、
家宅捜索を行うことになるのです。
そして見つかる衝撃の事実。
それについてはぜひ読んで
確かめていただきたいと思います。
夫・ジェラルドの
秘密を探るサスペンスこそ、
本作品の第三の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

付け加えるならば、
その後にアリクスに迫る身の危険、
電話もなく車もなく、
集落からかなり離れている一軒家
「ナイチンゲール荘」での孤立、
その状況下から機転を利かせて
勝負に出るアリクスの生き残る執念、
そうしたものが本作品の
最大の味わいどころになっているのは
いうまでもありません。

傑作といわれるのもうなずけます。
このサスペンス感は
背筋が凍りつくほどの恐怖です。
まだ味わっていない方、
ぜひご賞味ください。

(2026.2.6)

〔ハヤカワ文庫「リスタデール卿の謎」〕
リスタデール卿の謎
ナイチンゲール荘
車中の娘
六ペンスのうた
エドワード・ロビンソンは男なのだ
事故
ジェインの求職
日曜日にはくだものを
イーストウッド君の冒険
黄金の玉
ラジャのエメラルド
白鳥の歌
 解説

〔「世界推理短編傑作集3」〕
三死人 フィルポッツ
堕天使の冒険 ワイルド
夜鶯荘 クリスティ
茶の葉 ジェプスンユーステス
キプロスの蜂 ウィン
イギリス製濾過器 ロバーツ
殺人者 ヘミングウェイ
窓のふくろう コール
完全犯罪 レドマン
偶然の審判 バークリー

「茶の葉」
「キプロスの蜂」

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「動く指」

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