「江戸川乱歩全集第6巻 魔術師」(江戸川乱歩)

完成!「化け物キャラ」路線

「江戸川乱歩全集第6巻 魔術師」
(江戸川乱歩)光文社文庫

名探偵と恋愛とは縁が遠い。
恋愛に限らず、
謎解きに探偵のプライベートは
関係がない。
なんらかの謎が
投げかけられたら、
それをひたすら解いていくのが
名探偵である。
もちろんときには肉親や友人、
そして恋人がかかわった
事件…。
(「解説 山前譲」より)

江戸川乱歩の文庫版全集、
第6巻です。本書には
昭和五年から六年にかけて連載された
明智小五郎シリーズの長篇二作が
収録されています。
乱歩充実期の両作品、
読み応えのある一冊となっています。

〔「江戸川乱歩全集第6巻」〕
魔術師
吸血鬼
 解題/注釈/解説
 私と乱歩 福島泰樹

「魔術師」
実業家の福田のもとに届く
連続数字は殺人予告か!?
厳重な警戒の網をかいくぐって
凶行は行われた。
警備の巡査とともに
甥の二郎が寝室をのぞき込むと、
そこには首を切断された
無惨な死体があった。
頼みの明智は行方不明となり…。

〔「魔術師」味わいどころ〕
①明智、まさかの誘拐そして死亡
②明智、二人の女性に心を寄せる
③明智、依頼主の命を守れるか!?

「吸血鬼」
三谷が愛した女性・
倭文子を狙う怪人「唇のない男」。
怪人は音もなく現れ、
煙のように消え去る。
倭文子の息子・茂が誘拐され、
続いて倭文子もまた行方不明、
さらには謎の訪問客が殺され…。
三谷は探偵・明智小五郎に
捜査を依頼する…。

〔「吸血鬼」味わいどころ〕
①奇術を使う!怪人「唇のない男」
②明智小五郎ファミリー揃い踏み
③少年探偵団転身への濃厚な気配

本書の味わいどころ①
完成!「化け物キャラ」路線

収録された二篇の表題
「魔術師」「吸血鬼」からもわかるように、
化け物キャラが主人公です。
「一寸法師」「蜘蛛男」と続いた
「化け物キャラ」路線は、
本書収録の二篇で
完成されたといっていいでしょう。
ただし化け物キャラといっても、
大人向け作品です。
のちの二十面相シリーズのような
「透明怪人」だの「宇宙怪人」だのといった
羽目の外し方にはなっていません。

「魔術師」は、
文字通り正体不明の怪人「魔術師」が、
連続殺人事件を引き起こしていきます。
その魔術のような手口により、
なんと冒頭、明智小五郎がいきなり
誘拐され死亡してしまうという
大波乱の幕開け。
そして連続殺人事件発生。
もちろん明智は生きていて、
一発逆転の大活躍で
汚名返上するのです。
しかしこの「魔術師」、
追い詰められて自死しても、
その後に目的の殺人を果たすという、
文字通りの「魔術師」なのです。

一方、「吸血鬼」は、
表題どおりのドラキュラ様の怪物が
登場するわけではありません。
現れるのは「唇のない男」。
顔が焼けただれ、
唇を失ったという設定です。
しかしこの怪人は、
化け物キャラ的な活動はしません。
猟奇的殺人もしません。
いたって地味なのですが、
その代わり神出鬼没です。
突然現れたかと思うと突然消える。
ボートの爆発炎上で死んだかと思えば、
再びよみがえり罠を仕掛ける。
アジトの火災で焼死したかと思えば
ヒロイン倭文子を
しっかりと殺害してしまう。
こちらも読み手には
奇術使いとしか思えない悪役なのです。

この、完成された「化け物キャラ」路線、
超人的悪役の闊歩こそ、
本書の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。

本書の味わいどころ②
推理より冒険とサスペンス

したがって推理の場面は少なく、
冒険とサスペンスが主体の
ミステリなのです。
「魔術師」では、
明智が肉体派ともいえる冒険を
披露します。
死亡したと見せかけての
敵アジト脱出劇から続く隠密行動、
そして魔術師の一味を追い詰め
一網打尽にする作戦技。
「吸血鬼」でも
文代夫人と一緒の冒険活劇、
さらには小林少年も加わっての
明智一家総出の犯罪捜査。
読みどころ満載なのです。
この、推理より冒険とサスペンスで
盛り上がる筋書きこそ、
本書の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。

本書の味わいどころ③
明智のプライベート大公開

本記事の冒頭の一文は、本書巻末の
解説の一節を抜き出しました。
これまでほとんど取り上げられなかった
明智のプライベートが、
この二篇には描かれているのです。
「魔術師」ではなんと
犯人一味と対峙しながら、
犯人の娘に恋愛までするという
マルチタスクをこなす明智。
そして明智探偵事務所を構え、
助手として小林少年を雇い入れ、
明智一家を結成するという
ファミリー構想。
この、明智のプライベート
大公開ともいえる設定こそ、
本書の第三の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

現代の感覚で読むと、
噴飯ものの設定がかなりあるのですが、
読書はそもそも作品を
現代に引き寄せるべきではないのです。
昭和五年という時代の空気を感じ、
その中に浸りきって
読み味わうべきなのです。
今から約百年前の人間の精神に戻って、
じっくりとご賞味ください。

(2026.2.13)

〔青空文庫〕
「魔術師」(江戸川乱歩)
「吸血鬼」(江戸川乱歩)

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