「八百八十番目の護謨の木」(横溝正史)

探偵小説の香りのする冒険小説

「八百八十番目の護謨の木」(横溝正史)
(「血蝙蝠」)角川文庫

恋人・大谷慎介の無実の証として、
三穂子は殺された緒方の残した
「O谷」の文字の意味を解く。
それは犯人の名前ではなく、
ゴムの木に彫られた
0880番という番号だった。
緒方の共同経営者・龍三郎とともに
ボルネオに渡る三穂子は…。

昭和16年発表の本作品、時局柄、
ストレートな探偵小説は
まずかったのでしょう。
探偵小説の香りのする
冒険小説となっています。
「ニュース映画劇場」だの
「文化映画・南十字星」だの
「南方へ雄飛したい」だの
「南洋ボルネオのゴム園開拓」だの、
当時の雰囲気が色濃く反映されている、
横溝作品の中でも
異色な作品といえます。

本作品の読みどころ①
若き女性・三穂子のボルネオ大冒険

いくら戦前とはいえ、
そしていくら両親に先立たれて
独り身だったとはいえ、
さらにはいくら恋人の
無実の証を立てるためとはいえ、
若い女性がボルネオまで
冒険しに行くのか?
という疑問を感じてはいけないのです。
三穂子の大胆な行動を
素直に楽しむのが正しい読み方です。

もっとも同行してる
日疋龍三郎なる人物が相当怪しく、
いつ襲われても
不思議ではないのですが、
それも冒険の一部なのです。

本作品の読みどころ②
被疑者・慎介の隠密行動

殺人の疑いをかけられた慎介は、
事件直後に行方をくらましたままです。
だからこそ
より嫌疑が濃くなっているのですが。
当然、
そこここに現れた気配を見せます。
読み進めると、
突然登場する「謎の中国人」は
間違いなく慎介だと、
読み手にとってはバレバレなのですが、
それも面白さの一つなのです。

本作品の読みどころ③
ゴムの木に隠されたものは何?

ボルネオのゴムの木に、
日本で起きた殺人事件の犯人を
指し示すような証拠が
隠されているはずがありません。
当然0880の番号のゴムの木に
隠されているのは
何らかの財宝に決まっています。
そうでなければ
冒険小説にはならないのです。

という具合に、
先が読めてしまう展開なのですが、
冒険小説はそれでもいいのです。
主人公がスリリングな冒険を
してくれさえすれば。

さて、結末では0880の
ゴムの木から見つかった財宝について、
「だれのものでもない。
 日本政府のものなんです。
 われわれはやらねばならぬ。
 開拓者としてそれを
 やりとげねばならぬ。」

当時、小説を書き続けるには、
こうした「配慮」や「忖度」が
必要だったのでしょう。
やはり時局を反映しています。

(2018.8.30)

janimahkonenによるPixabayからの画像

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