「青い麦」(コレット)②

あれこれと考えてしまいました

「青い麦」(コレット/河野万里子訳)
 光文社古典新訳文庫

前回取り上げた本作品は、
単なる「ボーイ・ミーツ・ガール」では
ありません。
実は「年上の女性による
性の手ほどき」と
「16歳・15歳のカップルの初体験」を
題材にしています。
この二点で、
50を過ぎた私は
あれこれと考えてしまいました。

「性の手ほどき」の方ですが、
こちらはもちろんダルレイ夫人が
フィリップを誘惑するのです。
32、3歳の経験豊富な女性が
16歳の若者を手なずける。
現代日本では考えにくいのですが、
解説によると
この時代の仏社交界では
一般的だったとのこと。驚きです。
避暑地での秘め事。
妖しい魅力に溢れています。

避暑地での秘め事で
連想してしまうのがサガンの
「悲しみよこんにちは」でしょうか。
こちらは17歳の少女が
父親の恋人を(結果的に)事故死に
追いやるストーリーでしたが、
同じような匂いを感じてしまいます。
そういえば新潮文庫刊のサガンは、
本作品と同じく
河野万里子の訳文でした。

「初体験」の方ですが、
こちらは日本のライトノベルあたりを
あたればいくらでもでてきそうです。
ところが、
解説によると当時のフランスにおいて
「若い男女の恋」は有り得なかったため、
本作品は画期的だったそうです。
そのあたりの事情は、
本書解説に詳しく載っています
(本書はこの「解説」の存在が
作品理解に大きく貢献しています)。

そうした当時の事情を考えたとき、
フィリップとヴァンカの二人は、
このあと上手くやっていくことが
できるのかどうか、
心配になってきます。
フィリップは誘惑に負けずに
ヴァンカの愛に応えようと
していくのかどうか。
ヴァンカは傷物になってしまった以上、
他の男性との結婚については
大きな障壁(持参金大幅加増)が
できたのですから、フィリップに
捨てられるわけにはいかない。
現代とは大きく事情が異なるのです。

さて、「性の手ほどき」や「初体験」が
描かれている作品を中学生に
薦めるのもどうかと思いますが、
本作品の場合、
直接的な描写があるわけでもなく、
極めてさらりと流しています。
このあたりは外国の作家たちは
実に上手です。
したがって、
中学校3年生あたりなら
発達段階として問題ないでしょう。
そしてそこにこだわるより、
南フランスの豊かな自然と
若い二人の揺れ動く心理が、
実に細やかに描写されている
本作品の文学性こそを、
ぜひ中学校3年生に
味わってほしいと思うのです。

(2018.11.27)

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