「大好きな本 川上弘美書評集」(川上弘美)

書評集というよりは言葉のコレクションBOX

「大好きな本 川上弘美書評集」
(川上弘美)文春文庫

「大好きな本」。
タイトルからして本好きな私は
惹かれてしまいました。
著者が私の好きな川上弘美だったから
なおさら惹かれてしまいました。
1ヵ月かけてようやく読み終わりました。
読みにくかったからではありません。
面白すぎて、
もったいなくて、
毎晩少しずつ読み進めた結果なのです。

ここに取り上げられている本は144冊。
著者は多分、
これらの本が
好きで好きでたまらないのでしょう。
本書には「読め」といった
押しつけ的な文言は
まったく書かれていません。
しかし、
「これ、絶対面白いから」という
著者のつぶやき、
いや歓声が、
行間から漏れ響いてくるような
錯覚に陥ってしまうのです。

それは、
著者が自分の主観を大切にし、
自分の感じたことを
前面に強く押し出しているからなのです。
読んでいないこちらからすれば、
それがどんな内容の本か
つかめないような書評も、
中にはあります。
でも、
面白い本であるということは
十分に伝わってくるのです。
書評とはかくあるべきなのでしょう。
内容を正確に伝えることではなく、
面白さを十二分に伝えること。
まいりました。
本好きがそのような文章に出会うと、
内容がわからなくても
「ほしい」「読みたい」という感覚が
呼び起こされてしまいます。

そしてそれ以上に特筆すべきは、
書評を綴る著者の語彙と表現の豊かさ
(作家なのだから当然といえば
当然なのですが)です。
書評集というよりは
言葉のコレクションBOXとでも
形容したいような一冊なのです。
読み進めるのがもったいないと感じたのは
このためです。
ついつい立ち止まって
味わってしまうのです。
美しい言葉や魅力ある表現を含んだ一文を、
十分に咀嚼し、
飲み込んでから再び反芻するような
読み方をしてしまいました。

ああ、このように言葉を
使いこなせる方が羨ましい。
と、素人がプロの技を羨んでも
仕方ありません。
それよりも、
本書によって自分の本の世界が
また広がったことを
素直に喜びたいと思います。
全144冊中、
私の読んだことのある本はわずか9冊。
135冊も未知の本があります。
次の読書の目標ができました。

本の海はやはり広くて深い。
これからも
本との素晴らしい出会いが
続きそうです。

※理科・数学は、
 努力すれば誰でもできるようになる。
 しかし国語・文学という学問は、
 高いレベルに達するために
 センスを必要とする。
 高校時代、数学の先生が
 そう言っていたのに対し、
 軽い反発を覚えたことを
 今でも覚えています。
 でも、あの一言は
 もしかしたら正しいのかもしれない。
 本書を読み、
 川上弘美の言葉に触れて、
 ふとそう思いました。

(2019.1.3)

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