「七夜物語」(川上弘美)③

キャラクターは、ちっとも素敵でないのです

「七夜物語 上・中・下」(全三巻)
(川上弘美)朝日文庫

「夜の世界」第七夜でさよと仄田は
完璧な美しさを持った子どもたちと
出会い、魅了される。
しかし、その子どもたちは
醜く弱々しい姿に
変わってしまった。
子どもたちは、この世界が
ばらばらになろうとしていることを
二人に告げる…。

1日の半分の時間が
完璧な美しさを持った姿になり、
残り半分は醜い姿になる。
「夜の世界」は「美」と「醜」、
「善」と「悪」、「光」と「闇」のように、
2つに分裂し始めたのです。
その子どもたちと接する中で、
さよと仄田は気付くのです。
「きれいだけだったり、
 いい子だけだったりするのって、
 つまらないでしょう。
 いいところも悪いところも
 まじりあってでこぼこしていて、
 いつそのいいところが出てくるか、
 いつ悪いところが出てくるか、
 わからないのが、
 すてきでしょう」

考えてみると、
本作品の登場人物のキャラクターは、
ちっとも素敵でないのです。
異世界の冒険といえば本来、
女の子は勝ち気で行動的な性格、
男の子は素直で明るいタイプが
多いのではないでしょうか。
さよは大人しいし控えめです。
仄田は周囲と交われない変わり者です。
どう見ても主役型ではありません。

さよの母親も自分のことで手一杯だし、
父親も包容力があるわけでありません。
「夜の世界」のグリクレルも
何かを変える力があるわけでもなく、
ウバも「悪」なのか「善」なのか
はっきりしません。
登場人物すべて
何かが欠けていながら、
しかし何かを持っているのです。

異世界の住人も含め、
キャラクターはきわめて現実的です。
これまでの物語の登場人物は
現実離れしているから
読み手は憧れました。
しかし本作品のそれは、
自分の身近にいそう、
もしくは自分に限りなく近い、
だから憧れることができるのです。

「こどもは、
 ひたすらいい子なのがいいのだと、
 さよは思っていた。
 でも、もしかしたら、
 違うのかもしれない。
 いい子の中に
 いい子じゃない部分があるから、
 すてきなのかもしれない。」

子どもたちが本作品を読み終えたとき、
「あんな風になりたい」ではなく、
「今のままでいいんだ」という
気持ちになるはずです。
これが大切なのだと思います。

3巻合計960頁という分量や
1970年代という時代設定を見るに、
作者は明らかに
大人向けのノスタルジック小説として
編んだはずです。
しかし、子どもが読んでも
十分楽しめる内容です。
ぜひ子どもたちに挑戦させたい作品です。

(2019.1.3)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA