「新版 原発を考える50話」(西尾漠)

大人たちはそれに気付かず3.11をむかえてしまった

「新版 原発を考える50話」(西尾漠)
 岩波ジュニア新書

3.11からまもなく8年が
たとうとしているのですが、
福島第一原子力発電所の廃炉作業は
一向に進む気配がありません。
果たして私が生きている間に
完結するのかどうか
不安に思うことがあります。
事故の完全な収束・廃棄物や
汚染土の処理等、原発問題については
福島県と国の問題とせず、
原子力発電所をもつ国の一人として、
私たちは自分の問題として
捉えなければならないと思います。

私は意識して3.11以前に書かれた
原発関連書籍を読むようにしています。
本書もそうした一冊です。
2006年2月出版の、
おなじみの岩波ジュニア新書です。
ここには福島原発事故を
予見していたかのような記述が
いくつか見られます。

「巨大地震が発生すれば、
 原発のさまざまな機器が
 同時に破損します。
 何重もの安全装置が
 あったところで、
 それらの装置も、やはり
 破損するおそれがあります。」

 (100P)

電力会社や
原子力安全保安院の責任者が
「あり得ない」と言い続けていたことが、
「あるんですよ」と、
事故の5年も前に
少年少女向けに書かれていたのです。

「(事故発生時の対策は)
 ひとことで言えば、
 住民を逃がさない対策と言えます。」
「(資源エネルギー庁審議官の
 話として)放射能で汚染された人が
 あちこち歩き回られても困りますし、
 どこかで割り切った判断というものが
 必要になってくると思います。」

 (117~119P)

福島の事故では、
避難勧告の遅れが指摘されていました。
しかし、最初から国は
住民の安全など
考えていなかったのです。
そうした国の姿勢を、
本書は鋭く指摘しています。

こうした原子力発電所の危険性と、
安全対策のずさんさについて、
懇切丁寧に子どもたちに
解説している本が出版されていながら、
大人の私たちは
そうしたことに気付かず、
3.11をむかえてしまいました。
大人の一人として痛恨の思いです。

難解な専門用語が散見されるため、
読み通すのは
やや難しい本書なのですが、
ぜひ中学校1年生に
薦めたいと思います。
もちろん2年生、3年生、
そして高校生にも
読んでもらいたいと思います。
そしてこうした
原発やエネルギーの問題を、
自分の心と頭で受け止め、
自分の考えをしっかり
持つことのできる人間に
なって欲しいと考えます。
明日の日本を築き上げるために。

※参考までに章立てを
Ⅰ 原発のいま
Ⅱ 核燃料リサイクル幻想
Ⅲ 危険がいっぱい
Ⅳ 原発のある社会
Ⅴ 原子力に未来はあるか
各章にそれぞれ
10話ずつ盛り込まれています。

(2019.1.23)

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