「青銅の魔人」(江戸川乱歩)

戦後の少年探偵団シリーズのスタンダード・モデル

「青銅の魔人」(江戸川乱歩)ポプラ社

ギリギリという
歯車の音を鳴らしながら
真夜中の時計店を襲う
「青銅の魔人」。
魔人が次に狙うのは
秘宝「皇帝の夜光の時計」。
犯行予告を受けた
秘宝の所有者・手塚龍之助は、
事件の捜査を
名探偵・明智小五郎に依頼する…。

昭和24年発表の本作品は、
戦後、満を持して乱歩が発表した
探偵ジュヴナイルであり、
少年探偵団シリーズ
第5作目に当たります。
第4作「大金塊」
戦時色の濃くなった昭和15年発表で、
怪人二十面相は登場しません。
したがって「妖怪博士」(昭和13年)以来、
実に11年ぶりの
少年探偵団・明智小五郎・怪人二十面相の
揃い踏みとなるのです。

本作品の味わいどころ①
見事な敵キャラ・青銅の魔人

もちろん
青銅の魔人=怪人二十面相です。
二十面相に再び
いろいろな財宝を盗ませるのでは
前3作の焼き直しに過ぎないと
考えたのでしょう。
突拍子もない化け物を登場させて
当時の子どもたちの心をがっちり掴む、
江戸川乱歩のエンターテインメントに
脱帽です。
トリックがゴム風船など、
稚拙なものが多いのですが、
大人目線で読んではいけません。
素直に感心するべきです。

本作品の味わいどころ②
明智&小林vs二十面相の面白さ

今回の二十面相は
財宝狙いではないのです。
用意周到に策を懲らしたのは
明智に対するリベンジのためなのです。
この明智&小林vs二十面相の対決に
息をのんでしまいます。

本作品の味わいどころ③
地下に広がる二十面相の「アジト」

地下にある秘密の「アジト」が
何とも言えない味わいです。
財宝を隠し、少年を拉致監禁し、
そして最後には明智に見事暴かれる。
これが「アジト」の醍醐味です。
男の子は秘密基地が大好きなのです。

乱歩は本作品以後、「透明怪人」
「電人M」「宇宙怪人」「夜光人間」など、
次々に奇怪なキャラクターを
登場させます。
実は味わいどころ①~③は
すべてそれらに共通に見られる
パターンでもあるのです。
つまり、この「青銅の魔人」こそ、
戦後の少年探偵団シリーズの
スタンダード・モデルなのです。

ただし、今改めて読むと、
違和感のある部分もいくつかあります。
最も気になるのは
戦災孤児と思われる浮浪少年に対する
小林少年の対応です。
危険な仕事を彼らに与えたかと思えば、
他の団員が嫌がるだろうからという
理由で「チンピラ別働隊」
(この表現自体に問題があるのですが)
として別組織にしてしまう。
明らかに差別なのですが、
それが当時の一般的な感覚だったのかも
知れません。

それを差し引いても、
本作品は魅力十分であり、
少年探偵団シリーズの
一つの頂点となっています。
少年の心に戻って、
もう一度楽しんでみませんか。

(2019.6.2)

Steve BidmeadによるPixabayからの画像

【青空文庫】
「青銅の魔人」(江戸川乱歩)

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