「君たちはどう生きるか」(吉野源三郎)②

本書出版時に近づいてきている現代社会

「君たちはどう生きるか」
(吉野源三郎)岩波文庫

前回は本書の持つ
人と人との繋がりという面から
考えてみました。今日はもう一つ、
経済格差の視点から
とらえてみたいと思います。

第4章の題「貧しき友」に
現れているように、
本書は貧困の問題を扱っています。
登場人物の家庭を見てみましょう。
超上流階級として描かれている
「水谷君一家」。
住まいは何部屋もある洋風豪邸。
お父さんはおそらく財閥総帥。
次に、上流階級と思われる
「北見君一家」。
お父さんは陸軍大佐。
高級官僚一家と考えられます。
主人公コペル君一家は
中流階級として描かれています。
お父さんが数年前になくなって
母子家庭です。
そして、下層階級である
「浦川君一家」。
豆腐屋を営んでいます。
店の若い衆が寝込んだので、
浦川君は店の手伝いをするため
学校を休まなくてはなりませんでした。

巻末の丸山真男による解説には、
「こういう日常的な見聞に
 属するような形での貧富の差が
 いまの日本にはもうほとんど
 視界から失せたことは事実です。」

とあります。
「貧乏の問題が、大きなテーマの
 一つになっていること自体が
 古くさく見えるかも知れません。」

ともあります。

古くさいのは本文ではなく
解説の方になってしまいました。
今や貧困は大きな社会問題です。
特に子どもの貧困は、メディアが
大きく取り上げているにもかかわらず、
政府の動きは緩慢です。

本文が出版されたのは1937年。
解説が書かれたのは
一億総中流といわれた年代1982年。
本文よりも解説の方が
的を外している印象を受けるのは、
現代が前者の経済環境に
近づいているからでしょう。

いや、もしかしたら近づいているのは
経済の問題だけではないのかも
知れません。
総務相が
メディアを威圧したかと思えば、
文科省が高校生の政治活動に
厳しい制限を設ける。
憲法解釈が一政権の見解により
変更されたかと思えば、
権力を縛るための憲法の改正を
権力者が熱心に推し進めようとする。
言論の自由が封じられ、
民主主義が否定されようとしている
昨今の状況もまた、
本書出版時のそれと似ています。

この第4章のノートだけは、
内容が3つにわかれ、
一から三まで番号が付与されています。
コペル君のおじさん、
貧困問題については
気合いが入っています。

古くて新しい貧困の問題、
大人も子どもも
一緒になって考えたいものです。

※有名な第4章の
 おじさんのノートの終末です。
「君は、毎日の生活に
 必要な品物ということから考えると、
 たしかに消費ばかりしていて、
 なに一つ生産していない。しかし、
 自分では気がつかないうちに、
 ほかの点で、ある大きなものを、
 日々生み出しているのだ。
 それは、いったい、なんだろう。」

 この答えを考えるだけでも、
 いろいろなことが書けそうです。

(2019.6.15)

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