「城」(カフカ)③

様々な視点から語られる登場人物たち

「城」(カフカ/前田敬作訳)新潮文庫

愛を誓い合った婚約者フリーダは、
Kが奔走している間、
もとの宿屋に戻っていた。
戸惑うKに、
酒場の少女ペーピーが告げる。
フリーダは最初から
Kを愛してなどいない上、
自分の地位向上のために
彼女はKを利用したのだという…。

前々回述べたとおり、
本作品に大きな展開などなく、
筋書きの大部分が
Kと周囲の登場人物とのやりとりに
割かれています。
そのやりとりの中で、
登場人物がまったく異なる顔を
見せていくのが
本作品の読みどころとなっています。

使者であるバルナバスは、
Kの周囲では唯一
「城」に通じている人物として、
最初は不思議な存在感を持って
描かれています。
ところが宿屋の人間をはじめとして
フリーダなどは
あからさまな軽蔑を持って
バルナバスを語ります。
さらには彼の姉オルガによって、
その身分が極めて不安定であり、
不遇な人生を送っていることが
明らかになるのです。

そのオルガについては、
Kはフリーダから
蔑むべき女であることを聞かされます。
K自身も好印象を
持っていませんでした。
ところが本人と直接話すうち、
自分のことを親身になって
考えてくれている(実際はオルガも
Kを利用すべく共存策をとっているに
過ぎないのですが)存在であることに
気づきます。

またフリーダに対しては
最初健気な女性として
Kの目には映ります。
そして心変わりしたフリーダに対して
Kは周囲の悪干渉が原因であり、
彼女の責任ではないと擁護します。
しかしペーピーは、
役人クラムの関心を惹きつけるために
助手たちと結託し、
自分の地位向上のために、
Kを巧妙に利用したのだと
打ち明けるのです。

尊大な人物から矮小な存在へ、
軽蔑すべき人間から力強い協力者へ、
愛する女性から計算高い小悪魔へ、
それぞれの視点から語られる
登場人物たちは、
実に多様な一面を次から次へと披露し、
それによって実在しているかのような
立体感を得ることに
成功しているのです。

そして誰が本当に信じてよい存在か、
主人公K以上に
読み手である私たち自身が
わからなくなり、
最後まで不安感を抱えたまま
読み進めることになるのです。

事件も起きず、ともすれば
冗長に感じる作品なのですが、
味わいどころは豊富にあります。
高校生に薦めたい一冊です。

(2019.7.13)

Gerd AltmannによるPixabayからの画像

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