「蛇行する川のほとり」(恩田陸)

謎解きが沸騰点に達したところで語り手交代

「蛇行する川のほとり」
(恩田陸)中公文庫

憧れの美少女先輩・香澄と
芳野の2人から、夏休みに合宿を
持ちかけられた毬子。
期待を膨らませて訪れた
「船着き場のある家」は、
かつて不幸な事件が
起きた場所だった。
毬子には幼い日に
その家で遊んだ記憶が、
確かにあった…。

主要登場人物は毬子、香澄、芳野、
そして毬子の友人・真魚子の4人の少女。
それに香澄の従弟の月彦、
月彦の幼馴染みの暁臣の
男子2人がからんできます。
物語は第一部から第三部、
そして終章と4つの部分に分かれていて、
それぞれ語り手が異なるのが特徴です。
この構成が効果を発揮し、
読み手は否応なしに
ぐいぐい物語の中に
引き込まれてしまうのです。

物語の鍵となる「過去の事件」とは、
数年前の嵐の夜、
「船着き場のある家」に
住んでいた女性が殺され、
同じ日に野外音楽堂の屋根から
少女が転落死したというもの。
女性は香澄の母親であり、
少女は暁臣の姉。

第一部を読み進めると、
毬子以外の合宿参加者
香澄・芳野・月彦・暁臣、
すべてが共犯者で
ぐるになっているような
印象を与えながらも、
それぞれがお互いを
牽制し合っているのです。
そして毬子にとって
重要な核心に触れたところで
第一部終了。

この先どうなる?と
期待して読み進めると、
第二部の語り手は
いきなり芳野へバトンタッチ。
読み手は戸惑います。
芳野が第一共犯者と
思っていたところなのですから。
ところが彼女もまた
真相を求めて混迷しているため、
読み手はさらに困惑するのです。
そしてすべての謎が
解けそうというところで
大どんでん返し。第二部終了。

誰が第三部を引き継ぐのかと思いきや、
それまで存在の薄かった真魚子が
語り手として登場。
えっ、この子、関係なかったんじゃ…。

この展開、巧みです。
それぞれの語り手にとっての謎解きが
沸騰点に達したところで
役割を交代させ、
新たな謎解きに向かわせる。
たった一つの真実目指して
6人が駆け引きを巡らしている。
毬子、真魚子以外は
すべて怪しかったのに、
実はすべてが
真実を探し続けていたという設定。

では、本作品はミステリーか?
でも事件は起きない(起きたのは過去)。
ファンタジーか?
謎はすべて合理的に解決される(一応)。
いや、やはり枠組みなど考えずに
純粋に作品世界に浸るべきか。
それが本書の正しい読み方なのです。

※本作品は中公文庫で出版されましたが、
 現在は集英社文庫版が
 流通しているようです。
 でも、私は中公文庫版の
 酒井駒子装幀の表紙が大好きです。

(2019.8.19)

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