「十三夜」(樋口一葉)

これを不幸を言わずして何という

「十三夜」(樋口一葉)
(「百年文庫046 宵」)ポプラ社

裕福な家に嫁いだ阿関(おせき)は、
夫の冷たい仕打ちに耐えきれず、
ある晩、家を飛び出し
実家に戻ってきた。
幼児を残し、二度と帰らぬ
覚悟であったが、
父親に諭された彼女は、
死んだつもりで子どもを育てる
決意をする…。

日本における離婚率が
高くなっているという
記事を読みました。
確かに現在、私の住む地域も
片親しかいない子どもの割合が
高くなっているます。
おそらく2割近くに
なるのではないでしょうか。
こんなにも簡単に
(でもないのでしょうが)
離婚しているのかと思うと、
残された子どもたちが
気の毒になります。

さて現代はともかく、明治の時代は
離婚などはしたくても
なかなかできませんでした。
本作品の女性も
一度決意した離婚を翻意します。

前回取り上げた「にごりえ」とともに、
一葉の傑作短篇です。
阿関は偶然資産家の夫に見初められ、
家格が違うにもかかわらず
半ば強引に嫁に取られたのです。
人も羨む「玉の輿」なのですが、
子どもが生まれたとたんに
夫の愛情が冷めてしまったのでした。
以来、夫から罵られる
毎日の繰り返しです。
現代なら慰謝料付で
離婚が認められて当然の状況です。

阿関は決して辛抱が
足りなかったわけではありません。
夫が浮気をしても辛抱、
夫が芸者を囲っても辛抱、
夫に蔑まれても辛抱、
召使いの前で罵倒されても
辛抱してきたのです。
そんな彼女が辛抱できなかったのが、
まるで自分から家を出るのを
待っているかのような
夫の態度なのです。

父親はそんな娘をなだめすかします。
「身はいにしえの
 斎藤主計が娘に戻らば、
 泣くとも笑うとも
 再度原田太郎が母とは呼ばるる事、
 なるべきにもあらず。
 良人に未練は残さずとも、
 我が子の愛の断ちがたくは、
 離れていよいよ物をも思うべく、
 今の苦労を恋しがる心も出ずべし。
 かく形よく生れたる身の不幸、
 不相応の縁につながれて
 幾らの苦労をさする事」

かくして阿関は
離婚を思い留まるのですが、
その前途には幸せな明日など
あろうはずもなく、
ただただ我が子との縁を切らぬために
自分を殺して生き抜くだけの未来が
待ち構えるのです。
これを不幸を言わずして
何というのでしょうか。

明治の女性・樋口一葉が著した
人生の辛酸を描いた傑作です。
一葉はこのときわずか23歳の
うら若き乙女。
なぜこのような作品を
編むことができたのか。
やはり天才です。

(2019.9.13)

【青空文庫】
「十三夜」(樋口一葉)

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