「青い山脈」(石坂洋次郎)②

まだまだ本作品から学ぶべき点が多そうです

「青い山脈」(石坂洋次郎)新潮文庫

前回取り上げた本作品、
新子と六助の恋愛を描いた筋書きが
横糸となっていると書きました。
では、縦糸にあたるものは何か?
それは新子の担任教師・雪子と
学校医・沼田の、
古いしきたりや旧弊な考え方を
打破しようと奮闘する姿です。
民主主義を広く啓蒙しようとする
作者の思想が、二人の台詞の
随所に織り込まれています。

「日本人のこれまでの暮し方の中で、
 一番間違っていたことは、
 全体のために
 個人の自由な意志や人格を
 犠牲にしておったということです。
 国家のためという名目で、
 国民をむりやりに
 一つの型にはめこもうとする。」

「自由」の本質を明快に説明しています。
学校現場では、教科化となった
道徳についての教員研修で、
「行き過ぎた自由を是正する」様な
観点で指導を求められることが
しばしばあります。
全体主義に走ったあまり、
国を滅ぼしてしまった歴史を
持っていることを忘れたかのようです。
時代が逆行しているような
気がしてなりません。

「日本人は観念主義者だから、
 民主主義だの、
 人間の基本的権利だのという言葉が
 もち出されると、
 それをうのみにしてしまえば、
 何もかもよくなるんだという、
 安易な考え方に陥りやすい。」

民主主義や基本的人権の
形式だけを取り込んで満足し、
その本質については
思考停止に陥ることの多かった
これまでの社会のあり方を、
改めて見直す必要を感じさせます。

「結婚はお互いの人格を
 より豊かに充実させる
 一過程であるという風な心持で
 暮していきたいと思います。」

結婚とは何かという、
古くて新しい問いかけに対する、
見事なまでの明晰な解答です。
これだけ離婚率が増加している昨今、
若い人たちに
ぜひ考えてもらいたい視点です。

占領下時代に
急速に導入された「民主主義」。
それがどのようなものであるか、
当時の読み手に
正しい観点から「民主主義」の本質を
解説しているかのようです。
それが70年経った現代でも
新鮮さを失っていないのは、
私たちの社会に
本当の意味での「民主主義」が
未だに定着していない
表れだと思うのです。

「なるほど、
 新しい憲法も新しい法律もできて、
 日本の国も
 一応新しくなったようなものですが、
 しかしそれらの精神が
 日常の生活の中にしみこむためには、
 五十年も百年も
 かかると思うんです。」

その言葉どおりです。
私たちの社会は、まだまだ
本作品から学ぶべき点が多そうです。

(2019.9.19)

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