「百年文庫003 畳」

畳同様に優れた力をもった作家たち

「百年文庫003 畳」ポプラ社

「馬乃文章 林芙美子」
三文文士の「僕」の女房は、
大工や左官工のように元気がいい。
めそめそしないので助かるが、
金がなくなると
「馬を食いたい」と云って困る。
貧乏続きでとうとう
家を追い出されるその日、
朝から女房の姿が見えない…。

「ある結婚式 獅子文六」
ずっと媒酌人を
断り続けてきた「私」は、
ある知人からの依頼だけは
断り切れずに引き受けてしまう。
結婚する当人たちの希望を聞き入れ、
小さな宴を自宅の一室で
執り行うことにした。
いよいよその当日…。

「軍国歌謡集 山川方夫」
毎夜10時頃、
窓の外を通る若い女性は、
いつも決まって
軍歌を歌いながら通り過ぎていく。
「私」が居候している先の
青年・大チャンがこの娘に恋をした。
彼は絶対に窓を開けて
声の主を見ようとしない。
しかしある夜、「私」はついに…。

百年文庫29冊目読了です。
本書のテーマは畳。
畳にまつわる小説って
そんなにあるの?と
疑問に感じながら読み進めましたが、
3篇とも畳に深く関わってはいません。
裏表紙に「小さな部屋に刻まれた
忘れえぬ思い出」とあります。
畳=小さな部屋ということ
なのでしょう。

「馬乃文章」では、
売れない文士「僕」が妻子とともに
友人宅の小さな部屋に転がり込みます。
「ある結婚式」では、
「私」が媒酌人を断り切れず、
自宅の小さな一室で
結婚式を執り行います。
「軍国歌謡集」では、
「私」が居候している小さな部屋から
軍歌を歌いながら通り過ぎていく
女性の正体を確かめます。
3篇ともその小さな部屋で起きたことが、
「忘れえぬ思い出」となっているのです。

それにしても畳は
日本家屋になくてはならないものです。
吸放湿性が高く、湿度の高い日本に
最も適した床面といえます。
しかも断熱性・保温性に優れ、
夏は涼しく、冬は暖かく、
四季のある日本に
ふさわしい素材なのです。

ところで現在の新築の家では
どのくらい
畳が入っているのでしょうか。
私の自宅(といっても名義は妻と義母、
私はマスオさん)も
1階の居間の半分と
私の書斎と息子の部屋はフローリング。
わが家は長男が車椅子、
義母も足腰が弱くなり、
椅子での生活が主となり、
従来の日本間では対応が難しいのです。
高齢化の進む日本社会では、
畳はますます需要が
低くなっていくのではないでしょうか。

3篇の作家たちも、畳同様、現代では
影が薄くなってきた感があります。
しかし、じっくり読み込めば、畳同様、
優れた力をもった作家たちで
あることがわかると思います。
林芙美子
「貧乏を愛した作家」と言われるくらい、
貧困の中でたくましく生きる
人間を描くのが得意です。
獅子文六
明治生まれのエンターティナー。
再評価が進み、
作品が次々に復刊されています。
山川方夫
ミステリー仕立ての
ショートショートが絶品です。

3篇とも読み応えのある作品です。
百年文庫、やはり充実度抜群です。

(2019.10.30)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA