「善助と万助」(海音寺潮五郎)

戦国の世を舞台にした老人二人の熱い青春物語

「善助と万助」(海音寺潮五郎)
(「百年文庫002 絆」)ポプラ社

三番家老但馬は
中老職の丹波に対して
意趣があるため口もきかない。
見かねた当主長政は
一番家老備後に仲裁を命じる。
但馬は老いたとはいえ
気の荒い無骨者、
備後はかつて名を馳せた勇士。
備後の説得に対し、
但馬は激昂する…。

「いやじゃ!おれは一生やつに
 口をきかぬと決心したのじゃ」

大人げない駄々をこねているのは但馬。
彼は先代如水(軍師・黒田官兵衛)から
仕えている50代の老家老。
武勇でならしただけあって、
気性の激しい老武将です。
一方の備後はかつての面影の失われた
小柄の老体、穏やかな性格です。

この老家老二人、備後と但馬は
先代如水から義兄弟の誓約を
命じられた仲なのです。
それぞれ幼名を
善助、万助といいました。
善助は小柄ながらも老成し、
その才能を早くから見いだされます。
一方、万助は喧嘩っ早く、
根は誠実であるものの、
周囲と衝突することの多い性格でした。
如水が一計を案じ、
善助を万助の兄貴分兼お目付役として
任命したのです。

そんな老家老二人が主君の面前で
激突したのですから大変です。
藩を二分する一触即発の危機、
…と思いきや、事態は丸く収束します。

その経緯の詳細は述べません。
ぜひ読んで確かめてください。
推察できるように、
若い時に結んだ絆が
年月を隔てても健在であったのです。
熱く想いをぶつけ合う老人二人。
思いきり本音で語り合う老人二人。
本作品は戦国の世を舞台にした
老人二人の熱い青春物語(!?)なのです。

ここで考えさせられるのは
備後の説教です。
「意地を捨てるくらいがなんじゃ。
 誰じゃとて意地は通したい。
 言いたいままに言い、
 したいままにしたい。
 それをせぬは
 浮世の義理というものなのじゃ。
 人にいく層倍、いく十層倍する
 かんにんとしんしゃくが
 なければならぬのだ。」

はっとさせられました。
私も50を越えたら、仕事上のことで
変に意地を張っている自分に
気付くことが多くなっていたからです。
いけないいけない。
もっと大人にならなくては。

それはさておき、泣ける作品です。
こうしたきらりと光る
時代ものの短編小説が好きです。
さすが海音寺潮五郎です。
秋の読書にいかがでしょうか。

※年をとるにつれて、
 涙もろくなりました。
 テレビドラマを見ては涙、
 映画を見ては涙、
 小説を読んでは涙、
 それどころか最近は
 漫画を読んでは涙
 (少年ジャンプのワンピース)。
 本作品も感動の嵐です。

(2019.11.8)

Thomas MühlによるPixabayからの画像

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