「幼年時代」(柏原兵三)

全編に溢れる子どもの目線が面白さの源です

「幼年時代」(柏原兵三)
(「教科書名短篇 少年時代」)中公文庫

ある夏の晩、
父は肝試しを企画した。
父が最初に行って、
八幡様の神殿に
新聞紙を置いてきて、
そこへ兄弟が上から順に
一人ずつ行き、その証拠に
新聞をちぎって持ってくると
いうものである。
いよいよ自分の番となった
「私」は…。

面白いです。
この子どもたちと父親の関係が。
幼い時代のユーモラスな体験が
3つ収められています。

一つめはこの肝試し。
長兄虎雄は泣きじゃくって
行くことすらできない。
次兄治郎は勇んで出発し、
新聞紙の小さな破片を持ってくる。
三男の「私」は勇気を振り絞って
八幡様まで辿り着くが、
新聞紙はまったくちぎれていない。
次兄が持ってきた破片は一体?

実は次兄の持参した紙片は
八幡様へ行く途中の八百屋で
店員が掃いていた古新聞だったのです。
次兄はズルをしていたというお話。

二つめは父の書斎への「探検」。
書斎に入ることを
禁じられていたのですが、
入るなと言われるほど
入りたくなるのが子どものサガです。
「私」は「本の王様」と呼んでいる
ウエブスターの辞書に
バラの押し花を試みるのですが、
なんとバラの色形が
辞書の頁にくっきり写ってしまい…。
知らない振りを決め込みます。

三つめは
同じく父の書斎への「再探検」。
父親は書斎の机の抽斗にチーズを隠し、
折にふれて切って食べていたのです。
「私」はこれくらいなら
ばれないだろうと少しずつ切って
こっそり食べていたのですが、
実は長兄次兄も同じことをしていて…。
父親からすれば数日間で
一気になくなっていたのですから、
気づかぬはずがありません。
その父親の、
子どもに対する処置がまた素晴らしく、
思わず笑ってしまいます。

全編に溢れる
子どもの目線が面白さの源です。
「父の書斎を探検した。」
「その辞書を
私は本の王様と呼んでいた。」など、
子どもならではの感覚です。

些細なことにドキドキ、ワクワクする、
子どもの鋭敏な感覚を、
余すところなく伝えている作品です。
中学生高校生が読めば、
その心理描写を
学び取る教材となるでしょうし、
大人が読めば、ああ、
確かにそんなことがあったっけ、という
ノスタルジックに浸ることができます。

かつて中学校の
国語教科書に掲載された、
柏原兵三の傑作短篇。
中学生にも大人にも、
自信を持ってお薦めできます。

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(2019.11.9)

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