「子どもたち」(長谷川四郎)

昭和の時代の温かい家庭を垣間見るような感覚

「子どもたち」(長谷川四郎)
(「教科書名短篇 少年時代」)中公文庫

中学2年の三郎は、
友人からジュウシマツという
小鳥を二羽もらってくる。
母親から飼育する許可を得た彼は、
材料を集めて
自分で小鳥の巣箱を作る。
しかし夜おそく帰った彼の父親は、
小鳥を逃がした方がいいと言う…。

朝寝坊のK君が
遅刻しないで出勤できるのは、
毎朝訪れる納豆売りの少女の
声のおかげである。
ある日曜日の朝、
K君は悪戯心を起こす。
黒頭巾に黒兵隊服という格好で、
少女の背後から近寄り、
「納豆を全部売れ」と
声を掛ける…。

子犬を拾ってきた
小さな息子に対して
母親は捨ててくることを命じる。
言うことをきかない息子に
立腹した母親は、
自ら子犬を捨ててくる。
やがて土砂降りの雨が降り、
雷鳴が轟く。
息子の「かわいそう」の一言に、
母親は…。

一軒の家に住む二つの家族。
ある朝、
一方の家族の牛乳受けから
牛乳が盗まれていた。
盗まれた方の主婦は
それを問題にしなかったが、
もう一方の主婦は
新聞配達の少年が怪しいと
怒り出す。やがて
三度目の盗難が起きたとき…。

前回取り上げた長谷川四郎の、
4話からなる短編作品です。
実は第1話が「少年」という題で、
第3話が「買い物」として
中学校の国語の教科書に
掲載された作品です。
両作品とも、
生きものを飼いたいと願う少年と、
それを快く思わない大人との
すれ違いが描かれています。

それに対して第2・4話の主人公は
大人であり、
「少女を驚かす青年」と
「少年を疑う主婦」が描かれています。
第2話などは現代であれば
変質者の声かけ事案として
通報されるのがオチなのでしょうが、
「K君は納豆がきらいで、買った納豆を
みんな腐らせてしまった」と、
ユーモラスにまとめています。

それにしても4話とも
現代には少なくなった、
ほのぼのとした情景が
巧みに描出されています。
第1話の小鳥の巣箱づくり、
第3話の母親のミシン掛けの内職、
第4話の少年の新聞配達などは
珍しくなったのではないでしょうか。
さらには第2話の朝の納豆売りなどは
もうどこにも見られないと思います。

内容的には繋がりのない4つの掌編が
まとめられた本作品。
当然ですが前回の「鶴」のような
重苦しさは微塵も感じられません。
昭和の時代の温かい家庭(まるで
サザエさんかちびまる子ちゃんのよう)
を垣間見るような感覚を覚えます。
長谷川四郎という作家に
興味を覚えましたが、
やはり絶版となった作品が多く、
他の作品と出会うのは難しそうです。

※余談ですが私は納豆が大好きで、
 買ってきてから
 1ヵ月以上冷蔵庫で熟成
 (賞味期限を越え、腐る寸前)
 させてから食べるのが好きです。

(2019.11.25)

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