「細雪」(谷崎潤一郎)②

雪子があぶり出した旧時代の結婚観・家族観

「細雪」(谷崎潤一郎)中公文庫

雪子に再び縁談が舞い込む。
公家華族・御牧子爵の庶子で、
45歳だという。
一方、東京滞在中に妙子は、
三好の子を妊娠しており、
4か月だということを幸子に告げる。
幸子たちは妙子が有馬で
秘密裏に出産するよう手配する…。

前回取り上げた四女妙子が
現代女性の先駆けであるならば、
三女雪子は
古き良き時代の日本女性の
終末形といえそうです。
何しろ蒔岡四姉妹の中で
最も美しいのですから。
和服の似合う
細身で色白の日本美人。
三十路を越えているのに
二十代前半に見える。
清楚でつつましやか、口数が少ない。
理想的です。

「細雪」は、この雪子の縁談に始まり
縁談に終わる「縁談小説」ともいえます。
しかしこの縁談、
現代の我々から観ると、
理解できないことだらけです。

そもそも、雪子が男性と出会う場面は
見合いしかありません。
そして周囲の決めた人と
結婚することに
何の違和感も持っていません。
恋愛ではないのです。
家の体面が保てるかどうか、
世間に対して
恥ずかしくないかどうかが、
当時の結婚においては
大切だったのです。
こうした当時の家柄尊重、
現代では考えられません。
当時の結婚とは、
家族とは何だったのでしょう。

小説の終末で、
ようやく雪子と御牧子爵との
縁談がまとまります。
この御牧子爵とやら、
年齢45歳、頭が禿げていて色黒、
美男子ではない。
前妻との一人娘あり。現在無職。
理想的な美人日本女性・雪子が、
家柄と財産だけで結婚相手となる。
戦前の結婚観が
いかに個人の自由にならないもの
だったのかがよくわかります。

それにしても妙子と雪子、
鮮やかな対比で描かれています。
おなかの子が
死産となった妙子は退院後、
次女幸子の家に
荷物を取りに戻りますが、
そこには雪子の嫁入り道具と
祝いの進物がきらびやかに
所狭しと並んでいたのです。
それらを横目で見ながら
そそくさと家を出る妙子。
この場面にすべてが凝縮されています。

自らの意思で、
しかし望まれない結婚をする妙子。
自らの意思とは関わりなく、
皆から祝福される結婚をする雪子。
どちらが幸せなのでしょう。

前回書いたように、小説ははからずも
日本の価値観の崩壊と
転換を映し出していました。
そして同時に、
旧時代の結婚観・家族観とは
何だったのかを
あぶり出しているのです。

(2019.12.1)

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