「おかあさんのところにやってきた猫」(角田光代)

愛することに不器用な猫

「おかあさんのところにやってきた猫」
(角田光代)
(「100万分の1回のねこ」)講談社文庫

「100万分の1回のねこ」講談社文庫

猫の「おちびちゃん」は
飼い主の「おかあさん」と
幸せに暮らしている。
おかあさんはいつも
「おちびちゃん、いい子」と
褒めてくれる。
でも家の外に出ることだけは
褒めてくれない。
ある日、
窓から外を眺めていると、
一匹のトラ猫が…。

「100万分の1回のねこ」を
読み終わりました。
本書は佐野洋子「100万回生きたねこ」
オマージュ作品集です。
「100万回生きたねこ」に対する
各々の立ち位置が
明確になっているため、
それぞれの作家らしさが出ていて
読みごたえがありました。
本作品もまた、
角田光代らしいと思える作品です。
角田作品のすべてを
読み尽くしたわけではないのですが、
この作家の得意分野は
「愛することに不器用な人たち」を
描くことではないかと
私は捉えています。

created by Rinker
¥693 (2024/06/18 11:05:47時点 Amazon調べ-詳細)
今日のオススメ!

おちびちゃんはトラ猫に魅せられ、
おかあさんに知られないように
外に出るようになります。
外の世界を知ったおちびちゃんは、
やがておかあさんに反抗し、
ついには家出をしてしまうのです。

一読して感じたのは、
「満たされぬ思いを抱えた
少年少女の親への反抗物語」の
猫版ではないかということです。
人であれ猫であれ、
籠の中に閉じ込めて無菌状態で
育てることはできないのです。
でも、そんな単純な
物語ではないのでしょう。

「100万回生きたねこ」のトラねこは、
白いねこと出会って
白いねこを愛しました。
本作のおちびちゃんはトラ猫と出会い、
トラ猫に惹かれたものの、
トラ猫を愛するまでには
至っていないのです。

トラ猫とも再会できず、
仲のよかった猫とも死に別れ、
年老いたおちびちゃんは
おかあさんのもとへと戻ります。
しかし、おかあさんにも
老いはしっかりと訪れていて、
おちびちゃんを識別することは
できませんでした。

死ぬ間際に、
だから再生を願うのでしょうか。
誰かをしっかり愛せなかった者は
この世に未練を
残し続けるのでしょうか。
そして誰かをしっかり愛せば、
再生など願う必要は
ないということなのでしょうか。

おかあさんともトラ猫とも
愛し合うことのできなかった
猫・おちびちゃん。
愛されていても、
愛することに不器用だったのだと
思います。
いかにも角田作品らしい主人公です。

故佐野洋子の投げた問いかけに、
13人の作家が自らの解答を示した本書。
一読の価値ありです。

(2019.12.16)

Susann MielkeによるPixabayからの画像

【関連記事:角田光代の作品】

【今日のさらにお薦め3作品】

【こんな本はいかがですか】

created by Rinker
¥660 (2024/06/18 01:08:21時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥968 (2024/06/18 11:05:48時点 Amazon調べ-詳細)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA