衝撃的な谷崎初期作品
「飈風(ひょうふう)」(谷崎潤一郎)
(「潤一郎ラビリンスⅠ」)中公文庫
若い画家・直彦は、
遊郭で出会った女の虜となり、
瞬く間にふぬけのようになる。
彼は肉体的刺激を取り戻すため、
東北への旅に出る。
女に誓った貞操の手前、
旅先での欲求を
抑えるのに苦悶し、彼の行動は
次第に常軌を逸していく…。
今年で没後55年となる谷崎潤一郎。
同年代の他の作家に比べて
執筆期間が長く、
多くの作品が世に出されました。
谷崎作品のテーマは「女性の美の賞揚」、
そして「女性にかしずく男」。
本作における主人公直彦も、
まさに一生を
遊郭吉原の女に捧げたのですが、
谷崎の一連の作品と異なり、
衝撃的な内容となっていて、
異彩を放っています(谷崎作品で
衝撃的でないものはないのですが)。
本作品の衝撃①
伏せ字だらけの過激な表現
表現が相当過激です。
至る所伏せ字だらけなのです。
「長らく○○を失って居た
体の中から、
勃然として○○が
恐ろしい○○を以て、
頭を擡げだしたのであった。
彼は此の○○○の傾向を喜び迎え、
ますます其れを
○○するような食物を
いやが上にも貪ると共に、
蓄積された○○を
abuseしないように、
○○○○○○○…」
TVでいえば、放送禁止用語を連発して
自主規制音(ピー音)で
かき消されまくっている感じです。
本作品の衝撃②
真面目な主人公の奇行の数々
主人公は根が真面目なのですが、
その分思い詰めての行動が
奇行となってしまいます。
どうして性欲を押さえるために
ここまでしなければいけないのか?
笑える場面が目白押しです。
ぜひ読んで確かめてください。
本作品の衝撃③
唖然とする結末
これが最大の衝撃です。
常軌を逸した行動を重ねつつも、
貞操を守り抜き、半年の苦行の末に
女のもとへ帰還した彼はなんと…。
本作品の最後の三行に
唖然とさせられます。
自分の作品をもって
社会に何かを訴える、などという気は
微塵も無かったのでしょう。
日本語の美しさの追求も
本作品では一休み。
思いきりエンターテインメントに
徹した感があります。
でも、これも谷崎です。
言うまでもなく子どもに薦められる
代物ではありません。
酸いも甘いも知り抜いた大人が
密かに楽しむ作品です。
※作品中に「秋田県下の牡鹿半島に
猛進する計画を立て…」と
ありますが、これは明らかに
男鹿半島の間違いでしょう。
牡鹿半島は宮城県北部にあります。
文豪谷崎は地理に弱かった!?
(2020.3.2)