「ドリアン・グレイの肖像」(ワイルド)

肖像画の呪いを最も受けたのは誰?

「ドリアン・グレイの肖像」
(ワイルド/仁木めぐみ訳)
 光文社古典新訳文庫

友人バジルによって描かれた
肖像画の傑作、
そこに湛えられた自分の美貌を
目の当たりにした
美青年・ドリアン。
ヘンリー卿にそそのかされ、
不徳な道へと進んだ彼は、
若さと美貌を失うことを恐れ、
忌まわしい願いを
かけてしまう…。

その忌まわしい願いの結果、
彼の汚れと老いはすべて肖像画に現れ、
彼自身は若さと美しさを
保ち続けるのです。しかし、
彼と肖像画との間の呪わしい契約は、
様々な方向に悲劇を招き寄せます。

ここで考えてみると、
最終章でドリアンを襲う不幸は、
身から出た錆です。当然の報いです。
しかし、その不幸に
巻き込まれた人間が数名いるのです。
だとしたら、肖像画の呪いを
最も受けたのは誰なのか、という問題が
生じます。

まず、若き女優シビル。
もしもドリアンが、
肖像画によって
自分の美貌に気付かなければ、
このような仕打ちには
至らなかったはずです。

次に肖像画を描いた
才能ある画家バジル。
ドリアンを早々に見限っていれば
災難に巻き込まれることは
なかったでしょう。

さらにシビルの弟ジェイムズ。
18年もドリアンを追ったあげく、
兎狩りの流れ弾に当たって落命します。
これなどは呪い以外の
何物でもないでしょう。
そして文中には
ドリアンと関わったが為に
身を崩した人間が
何人も書かれています。

しかし、よく読むと、
肖像画の呪いに晒されていない人物が
一人います。
そう、ドリアンを悪の道に誘った
ヘンリー卿です。
彼は物語の至るところで
快楽主義的な、
人の道を外れた発言を繰り返します。
そこにはおそらく作者ワイルドの
生き方と思想がそのまま
反映されていると言えるでしょう。

そうです。
ドリアンはじめ不幸な登場人物は、
最初から作者ワイルドの
手のひらで踊らされている
駒に過ぎません。
心の底から快楽を求める者のみが
不幸に陥らないという、
背徳の構造を二重に表現している作品と
見ることができます。

そんな小難しいことを考えなくても、
この長編はスリリングで面白く、
駆け抜けるように
読み進めることができます。
途中から十分見えてしまう結末に
向かって一気に突き進んでください。
大人の読書本かも知れませんが、
こうした作品に
高校生の段階で触れておけば、
その後の読書の幅が
さらに広がるのではないかと考えます。

(2020.3.29)

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