「海に沈んだ大陸の謎」(佐野貴司)

まさかオカルト本?決してそうではありません

「海に沈んだ大陸の謎」(佐野貴司)
 講談社ブルーバックス

「ムー大陸伝説は誰もが一度は
聞いたことがあると思います。」
「はじめに」に記載されている
最初の一文です。
まさかオカルト本?いやいや、
決してそうではありませんでした。
ムー大陸のように、
大陸が水没することが
あり得るかどうかを
地質学的見地から検証した、
立派な科学本なのです。
では、どう「立派」なのか?

科学本としての本書の読みどころ①
興味をかき立ててからの科学的解説

いきなり地球物理学や地質学の
講義を始められても、
一般人はついて行くことができません。
第1章「ムー大陸は
本当にあったのか?」では、
ムー大陸という
一見非科学的な伝説から始まり、
それを太平洋に見られる
広大な海台地形が
それかも知れないという仮説を立て、
読み手をぐいぐい引きつけていきます。
十分な「つかみ」を行った上で
科学講義に入っているところが
素晴らしい点です。

科学本としての本書の読みどころ②
中学高校地学からの延長線上にある

ムー大陸は実在したのか?という
問いに対する答えが「ノー」であることは
推察がつきます。
それを理論を積み重ねて証明していく、
そしてその理論を中学校・高校段階での
地学の知識から
徐々に深めているのです。
第2章「南太平洋の失われた大陸」では、
中学校で学習する
「プレート・テクトニクス」について
解説し、大陸の水没に関わって
大陸移動の理論を紹介しています。
第3章「そもそも大陸とは何か」では、
高校地学で履修する
「アイソスタシー」を使って、
大陸と海洋の違いについて
詳しく述べています。
第4章「大陸形成の歴史」では、
「地質年代」「年代測定法」等を使って、
大陸の変動の証拠のつかみ方を
詳解しています。
素人にもわかりやすく
説明しようとしている丁寧さが
素晴らしい点です。

科学本としての本書の読みどころ③
さらなる興味へと繋げる視点の提示

難しい科学的知見を述べただけでは
終わっていません。
第5章「第七の大陸は存在する!」では
アトランティス大陸の存在の可能性を、
そして
第6章「大陸沈没を越える天変地異」では
生物の大量絶滅をもたらした
巨大天変地異を取り上げ、
読み手の興味をさらにかき立て、
科学への扉を大きく開いたまま
講義を閉じます。
科学っていいな、また読んでみよう。
そう思わせてくれる構成が
素晴らしい点です。

もちろん難しい記述も多々あります。
わからないところは読み飛ばし、
全体としての大意を掴む。
それが科学本の正しい読み方です。
理系の高校生に薦めたい一冊です。

(2020.5.12)

WikiImagesによるPixabayからの画像

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