「大陸と海洋の起源」(ウェゲナー)②

研究に対するウェゲナーの真摯な姿勢

「大陸と海洋の起源」
(ウェゲナー/竹内均訳/鎌田浩毅解説)
 講談社ブルーバックス

昨日取り上げた
ウェゲナーの「大陸と海洋の起源」、
何とついこの間、
ブルーバックスから竹内均訳が
新装復刊していました。
こちらを再読すると、
難しい内容なりに、
ウェゲナーの研究に対する
姿勢のようなものは
読み取ることができました。

一つは自分の研究や理論の長所短所を
正確に理解し、次の研究の道筋が
見えていたということです。
「他の議論と比較して、
 大陸移動説は、
 それが精密な位置決定によって
 テストできるという
 利点をもっている。
 もし大陸移動が
 長時間続いたものとすれば、
 それは今でも
 続いているにちがいない。
 したがって問題は、
 天文学的測定によって
 適当な期間内に
 それが測定できるかどうかという
 ことである。」
(P.43)
その予測の通り、
現代ではGPSを使って
地上の性格な位置測定が可能となり、
地球上の全表面がどの方向に
どれだけ動いているか
確かめられるようになっています。

もう一つは自分の専門領域に止まらず、
幅広い学問での知見を総動員させて
そこから見えてくるものを
大切にしようとする姿勢です。
「関係した科学と
 絶えず接触を保つことによって
 初めて、全地球上での
 昔及び現在の生物分布の研究が、
 真理を発見する仕事に対して
 豊富な実際上のデータを
 与えうるのである。」
(P.150)
大陸移動説という
ダイナミックな理論を打ち立て、
その一方で、
地質学・地球物理学のみではなく
生物学、古生物学、古気候学、
流体工学における諸問題との整合性を
一つ一つ詳細に検討しているのです。

一般向けに書かれた
書物ではないのでしょう。
難しい用語やなじみのない地名が
続出し、添えられてある資料と本文を
照らし合わせながら読むため、
相当な時間がかかります。
そして再読しても
やはり理解できない部分のほうが
多い状態です。

しかし、大陸移動説は
現在の地球物理学の最も基本となる
理論の原型であるのです。
そして著者・ウェゲナーが
当時は変人扱いまでされ、
没後数年たってようやく全世界から
認められるに至った経緯を考えたとき、
現代に生きる私たちにとって本書は
自然科学のバイブルのような存在だと
思うのです。

理系の高校生で難しいと思います。
ましてや一般の方々では
読み進めるのも困難であることが
予想されます。
それでもより多くの人に
ぜひ読んでほしい、
ぜひ手にとって欲しいと願う一冊です。

※日本の地球物理学の権威である
 竹内均博士の訳も素晴らしいです。
 本書は1975年に
 出版されていますが、
 その2年前、映画「日本沈没」に
 「竹内均教授」として
 本名のままで出演し、
 プレートテクトニクス理論について
 解説していました。

※巻末に掲載されている
 鎌田浩毅京大教授の解説も
 貴重です。
 岩波文庫版を
 所有しているにもかかわらず
 本書を購入したのは、
 この解説が目当てでした。

※できれば巻末ではなく、
 本文中に詳しい解説が
 掲載されたような形で
 本書が出版されるといいのですが。
 当時のウェゲナーの理論の
 どこが間違っていて、
 どこがどのように
 確かめられたのか、
 素人でもわかるような形態の本が
 できないでしょうか。
 出版社さん、
 よろしくお願いします。

(2020.5.13)

Hans BraxmeierによるPixabayからの画像

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