「江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者」(江戸川乱歩)

真紅の重々しい垂れ絹で
飾られた赤い部屋。
そこには異常な興奮を求めて
七人の男が集まっていた。
その一人のTが語り始めたのは、
自身が行ってきた99人もの
殺人のあらましであった。
話し終えた彼が取り出したのは
一丁の拳銃…。
「赤い部屋」

おそらくは恋も知らずに
死んでいったであろう
弟の日記帳をたどる「私」。
そこには美しい娘・雪枝との
文のやりとりが記されてあった。
手紙を差し出した月日の記録から、
「私」はそこに弟の秘めた
思いを感じ取る…。
「日記帳」

内気な人間のTが
職場の隣席の女性・S子に
恋心を打ち明けたその方法は、
なんとそろばんに数字を残して
置いておくことだった。
Tが暗号として数字に込めた思いに
気付くS子。
その彼女からの返信は…。
「算盤が恋を語る話」

「死んで幽霊となって
復讐を果たす」という
辻堂からの脅迫状が届き、
平田氏は神経衰弱となる。
平田氏は転地療養するが、
そこに辻堂の影が忍び寄る。
恐怖におののく平田氏を
助けるかのように、
見知らぬ青年が
話しかけてきた…。
「幽霊」

そして中期以降は見られなくなった
軽いタッチの作品や
コントともとれる作風が
ここにはいくつかあります。
それもまた乱歩の一面なのです。

ある地方の教会に
「今夜十二時に寄付金を
いただく」という犯行予告の
手紙が舞い込む。
通りがかった巡査とともに
金庫を見張るが、
犯行時刻を過ぎたところで
巡査は金庫を開かせ、
寄付金を奪って逃走する。
そこへ別の巡査が現れ…。
「盗難」

ある大通りを歩いていた「私」は、
街角で行き交う人々に
何かを訴えている男を目撃する。
男は真剣な表情で
必死に弁舌しているが
聴衆はみな大笑いして
聞き流していた。
男の話を聴いていた「私」は、
やがて言いしれぬ
恐怖を感じる…。
「白昼夢」

列車内で男Aが
男Bを問い詰める。
「先日の車内では
うまく逃げおおせたようだが、
夫人から摺った指輪は
一体どうやって
持ち出したのだ」と。
BはAが車窓から
とっさに投げ捨てた蜜柑の中に、
指輪が仕込まれていたと
考えていた…。
「指輪」

夢遊病の癖のある彦太郎は、
それがもとで
奉公先から暇を出される。
しかし彼は
その事情を父親に話すことができず、
家ではいつも父親と
口論ばかりしていた。
ある朝、彼が目覚めたとき、
父親は庭先で冷たくなっていた…。
「夢遊病者の死」

友人Rに連れられていった
芝居小屋。
そこで演じていた百面相役者は、
その名の通り登場する度に
人相が変わり、
女にも老人にもなりきっていた。
帰り道、
Rは「私」を部屋に連れ込み、
百面相役者に関わる
恐ろしい疑惑を語り始める…。
「百面相役者」

「盗難」や「百面相役者」には、
怪人二十面相の原形が読み取れます。
乱歩の創作過程がうかがえる
作品群ともなっているのです。

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