「まほうやしき」「赤いカブトムシ」(江戸川乱歩)

二十面相ばりのいたずらを次々と仕掛ける魔法博士

「まほうやしき」「赤いカブトムシ」
(江戸川乱歩)
(「江戸川乱歩全集第20巻」)
 光文社文庫

怪しいちんどん屋の、
「おもしろいものを
見せてあげる」という
言葉に誘われ、
少年探偵団員の井上、野呂、
そして井上の妹・ルミは
町はずれの古い西洋館に
入っていく。
その部屋の中には
ちんどん屋の姿はなく、
おそろしい西洋悪魔が…。
「まほうやしき」

小学校三年生の
サト子・ミドリ・サユリの三人は、
マンホールから現れた
西洋悪魔のような男を追い、
森の中の西洋館の前に立つ。
開いた二階の窓からは
女の子のけたたましい叫び声が。
ミドリは少年探偵団員である
兄に相談する…。
「赤いカブトムシ」

1957年に月刊誌「たのしい三年生」に
相次いで連載された乱歩の二作品です。
ほとんどがひらがなで書かれた
小学生向け作品だったためか、
ポプラ社の「少年探偵団」シリーズ
収録されなかった作品でもあります。
この二作品、前回取り上げた
「黄金の虎」の続編的内容であり、
怪人二十面相が登場しない代わりに、
やることなすこと限りなく
二十面相に近い男・「まほうはかせ」
(原文ではひらがな、以下漢字で表記)が
活躍します。

今回も魔法博士は
二十面相ばりのいたずらを
次々と仕掛けていきます。
「まほうやしき」では、
ブラックマジックを応用した変身術、
西洋悪魔のコスチューム、
改造し仕掛けを施した古い西洋館、
ライオンの着ぐるみ、
未成年者の拉致監禁。
ほとんど二十面相、というよりも
「黄金の虎」そのままなのです。
したがって小林少年に
簡単に正体を見破られるのも
仕方のないところです。

「黄金の虎」の焼き直しと思われては
いけないと思ったのでしょうか、
作者・乱歩は、
次作「赤いカブトムシ」では
趣向を変えるのですが、やはりすべて
二十面相の手口と全く同じです。
西洋悪魔と西洋館はそのままに、
マンホールからの突然の登場、
腹話術による自作自演
(二十面相の得意技)、
巨大な赤いカブトムシの化け物
(「鉄塔王国の恐怖」でも登場)、
吊り天井による拷問、
しまいには「青銅の魔人」の風船まで
登場するのですから、
「二十面相ではない」ことを
証明することの方が困難なはずです
(そもそも「魔法博士」という
ネーミング自体が、「虎の牙」で
二十面相が扮した怪人のもの)。

今回の魔法博士は
いたずらの度が過ぎたのか、
「赤いカブトムシ」の終末では
ついに明智小五郎登場、
ヘリコプターでの追跡となります。
その割と事件化せず
警察も介入しないのは
明智小五郎と
旧知の仲だったからでしょうか。
魔法博士、やはり不思議な存在です。

(2020.8.2)

Willgard KrauseによるPixabayからの画像

【青空文庫】
「まほうやしき」(江戸川乱歩)
「赤いカブトムシ」(江戸川乱歩)

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