「コロナ後の世界を生きる」(村上陽一郎編)

これからの時代の生き方の指針や考え方

「コロナ後の世界を生きる」
(村上陽一郎編)岩波新書

第2波の危機的状況の山場を
超えたとはいえ、
コロナの猛威は依然注視して
いかなくてはならない状況です。
世界はすでにワクチン開発など
ポストコロナに向けて
動き始めています。
私たちも政府や専門家の
垂れ流した意見を
鵜呑みにするのではなく、
自ら情報を収集して
いかなくてはならないと感じています。

そこで読んでみたのが本書です。
各界の第一人者24名の提言が
掲載されています。
それぞれの論点が異なるため、
本書全体での感想はまとめにくく、
私が付箋を残した部分を
取り上げてみます。

「欧州の子どもたちは
 小学校の低学年から
 弁論に慣らされていくが、
 自分の考えを自分の言葉で
 伝えるという訓練が、
 やがて政治家たちの演説や弁証を
 評価する力として鍛えられている。
 しかし、日本においては
 そのような西洋式の教育は
 まだ重要視されていない。」

コロナとは全く関係のない
教育論ですが、
世界中の人々から賞賛された
ドイツ・メルケル首相のテレビ演説に
関わって述べられたヤマザキマリ氏
(漫画「テルマエ・ロマエ」の作者)の
意見です。

(日本の感染抑止状況について)
 その達成の要因を検証し
 共有してこそ、
 今後も感染拡大に苦しむであろう
 世界各地の人々に連帯の証として
 歓迎されるに違いありません。
 ところがそういった達成を
 日本の政治家は「民度」の違いという
 一言に集約して見せました。」

某副総理の発言ですが、
私も漠然とした違和感を
感じていました。
その違和感の正体に気づかされました。
世界に貢献できる絶好の機会を、
日本の政治家は逃してしまったのです。
それどころか情報の遮断された国として
他国民の目に映ったならば、
これほど悲しいことはありません。

「用心といっても、
 手を洗う、マスクをする、
 室内を清潔にする、
 他人に触れない、
 近い距離での大声の会話は慎む、
 といった昔から変わらない
 所作をするだけのことだ。
 「行動変容」の逆で、
 習慣を変えずに振る舞ったら、
 今回も効果的だったのだ。」

コロナ渦は日本を変えるのか?という
問いに対する藻谷浩介氏の見解であり、
多くの知識人の予想とは正反対に、
氏は「原点回帰」すると
コロナ後の日本社会を想定しています。
この部分が一番読み応えがありました。
「変わらざるをえない」という
マスメディアからの情報が
いかに私たちに刷り込まれていたのかを
感じました。

本書はコロナ後の社会の
具体的な生き方の
指南書などではありません。
そうしたものを欲している方にとっては
「役に立たない」内容です。
本書はコロナによって見えてきた
現代社会の課題や問題点、
脆弱性を指摘し、
これからの時代の生き方の
指針や考え方の一例を
提示しているのです。
本書で示された知見を
消化吸収することにより、
自分の視野を広げ、
多角的な見方を確保し、
自ら情報を取捨選択する能力や、
自分の考えで行動する力を
身につけるためのものと
考えるべきでしょう。
多くの人に
読んでいただきたい一冊です。

※章立てと執筆者の一覧を。

Ⅰ 危機の時代を見据える
藤原辰史/パンデミックを生きる指針
北原和夫/教育と学術の在り方の再考を
高山義浩/新型コロナウイルスとの共存
黒木登志夫/日本版CDCに必要なこと
村上陽一郎/COVID19から学べること

Ⅱ パンデミックに向き合う
飯島渉/
 ロックダウンの下での「小さな歴史」
ヤマザキマリ/
 我々を試問するパンデミック
多和田葉子/ドイツの事情
ロバート・キャンベル/
 「ウィズ」から捉える世界
根本美作子/
 近さと遠さと新型コロナウイルス

Ⅲ コロナ禍と日本社会
御厨貴/
 コロナが日本政治に投げかけたもの
阿部彩/緊急事態と平時で
 異なる対応するのはやめよ
秋山正子/訪問看護と相談の現場から
山口香/
 スポーツ、五輪は、どう変わるのか
隈研吾/コロナの後の都市と建築

Ⅳ コロナ禍のその先へ
最上敏樹/世界隔離を終えるとき
出口治明/人類史から考える
末木文美士/終末論と希望
石井美保/センザンコウの警告
酒井隆史/「危機のなかにこそ
 亀裂をみいだし、
 集団的な生の様式について
 深く考えてみなければならない」
杉田敦/コロナと権力
藻谷浩介/新型コロナウイルスで
 変わらないもの・変わるもの
内橋克人/
 コロナ後の新たな社会像を求めて
マーガレット・アトウッド/
 堀を飛び越える

(2020.10.6)

Gerd AltmannによるPixabayからの画像

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